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2023年1月28日土曜日

これからの住まい・まちづくりと地域の住宅生産システム,雑木林の世界56,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センター,199404,

 これからの住まい・まちづくりと地域の住宅生産システム,雑木林の世界56,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センター,199404,

雑木林の世界56

これからの住まい・まちづくりと地域の住宅生産システム

                布野修司

 

 日本建築学会の経済委員会・地域の住宅生産システム小委員会(主査 鎌田宣夫)が設立以来十年を迎え、この十年を振り返るシンポジウムを開催した(日本建築学会・建築会館 一九九四年二月二三日)。建設省の地域住宅計画(HOPE計画)政策が開始されて十年だから、「地域」を基礎にする様々な試行も随分と歴史を積み重ねたことになる。この間、バブル経済に「地域」は翻弄され続けてきたのだけれど、「地域」について振り返ってみるいい機会かもしれない。

 「地域の住宅生産システムーーこの十年」と題されたシンポジウムでは、委員会の末席に名を連ねていた縁で、パネル・ディスカッションの司会の役を仰せつかったのであるが、以下に、その模様を記してみよう。

 会は、藤澤好一先生(芝浦工業大学)の司会で、鎌田主査(ハウジング・アンド・コミュニティー財団)の挨拶で始まったのであるが、そのメモには次のようにあった。「私たちが地域の住宅生産システムを未だに学問として明確に理論化しえない或いはすべきでない理由がある。それは、これまでの仮説の多くが現実の世界では明らかに有効であるとは認め難いからである。たとえば、お互いの足らざる所を補完しあう異業種の共同事業化や地域でのプレカットの導入等によりスケールメリットを発揮できる三百戸生産体制の共同事業化等は未だその成功例をみない。・・・」。

 続いて、「これまでの地域の住宅生産システム」と題して、各地の展開の総括が秋山哲一先生(東洋大学)からあった。「○○の家」といわれる、各地の地域型住宅の実態が中心である。

 そして、具体例として四つの報告がなされた。①茨城木造住宅センターの試み 中村哲男(茨城県木造住宅センター)、②熊本県「郷の匠」の試み 黒川隆運(KT企画) ③北方型住宅の試み 大垣直明(北海道工業大学)、④プレハブ住宅メーカーの地域化の試み 大江恵一(積水ハウス)。

 ①協同組合による展開、②大工・工務店・地域ビルダーによる協会・任意団体による展開、③行政による優良地域型住宅認定制度の展開、④住宅メーカーの地域的展開をそれぞれ比較するねらいがあった。

 そして、パネル・ディスカッションのパネラーは、大野勝彦(大野建築アトリエ)、山東和朗(住宅生産団体連合)、河野元信(建設省住宅局)、松村秀一(東京大学)、遠藤和義(工学院大学)の諸先生であった。また、副司会をお願いしたのが深井和宏先生(小山職業能力開発短期大学)である。

 予め、司会の方で進行を用意するようにと言われてパネラーに送ったのは以下のようなメモである。

 これからの住まい・まちづくりをめぐって地域の住宅生産システムのあり方を以下の諸点を中心に議論したい。

 1.地域という概念・・・地域という概念をどう捉えるのか。前提となる地域とは具体的には何なのか。特に、地域の住宅生産システムという時の地域とは何か。何らかの閉じた系が想定されているのか。そのスケール、空間的広がりをどう考えるか。あるいは、地域を問題とする戦略的意味は何か。

 2.住宅生産システムの諸類型・・・地域の住宅生産システムのモデル、型にはどのようなものがあるか。生産者社会の組織体制、システムの内部と外部、およびその相互関連のネットワークを含めて、出来たら具体的な例を挙げながら、いくつか提示して欲しい。

 3.住宅生産システムの諸問題・・・1,2を前提として、関連する以下の問題を考えたい。

 a.生産量(年間建設戸数)について、人口規模、住宅生産者社会の規模等に従って、システムの自立する条件は何か。適正規模ということがあるか。

 b.システムの担い手は誰か。その再生産の様式(後継者の養成)はどのように保証されるか。「地域」を超える様々な主体の関係をどう考えるか。

 c.住宅部品、住宅建材など材料生産のあり方はどうあるべきか。地域産材とは何か。建材生産の国際化をどう考えるか。

 d.地域の住宅生産の技術(構法)はどうなっていくのか。どうあるべきか。工業化構法はどこまで進展して行くのか。

 e.要するに、システムの何が問題なのか。

 4.地域におけるこれからの住まい・まちづくりのあり方についてできるだけ具体的にイメージして欲しい。

 a.主体のイメージ b.行政の役割 c.建築家の役割 d.大工・工務店の役割 e.部品建材等メーカーの役割 f.ネットワークのイメージ等

 もちろん、限られた時間で以上のような議論ができるわけではない。このメモを頭に置いた上で各パネラーの発言要旨が書かれている。とても要約できないので、興味ある読者は資料を手に入れて頂きたい(連絡先:秋山哲一     〇四九二-三一-一四〇〇)。

 各パネラーから様々な提起があったのであるが、質疑でまず議論が集中したのは、担い手育成の問題であった。地域の住宅生産システムを考える上で鍵となるからである。また、この間、各地で担い手の育成事業が展開され始めており、議論が積み重ねられているせいもあったかもしれない。

 もうひとつ、印象的だったのは、ローコスト化のためのアクション・プログラムに関連した課題が出されたことだ。また、山東先生から、規制緩和や景気対策、地方分権といった日本の社会の喫緊の課題とリンクする形で、住宅生産システムの課題が提示されたことである。

 司会者として、予めメモをつくってみたものの、もちろん方向性が見えているわけではない。どの立場において展望するかにおいて見取り図は異なるだろう。そうした意味で、大野先生の分析はいつもながらすっきりしていて説得力があった。地域には多様な住宅ニーズがあり、それを満たすシステムが用意さるべきだ、というのである。 

 


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