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2023年2月6日月曜日

東南アジアのエコハウス,雑木林の世界60,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センターセンタ-,199408

 東南アジアのエコハウス,雑木林の世界60,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センターセンタ-,199408

雑木林の世界60 

東南アジア(湿潤熱帯)のエコハウス(環境共生住宅)

 

                布野修司

 

 今年の連休(五月二日~一〇日)は、かねてから通っているインドネシア・ロンボク島のチャクラヌガラの町を歩いた。応地利明先生(京都大学東南アジア研究センター教授)と二人で、聞き取り調査を行ったのである。聞き取り調査といっても簡単なもので、各戸のカーストを聞くのである。バリ人のヒンドゥー社会にはカーストが存在するのである。簡単といっても、町の全域になるから、歩いたのは一日八キロから一〇キロになろうか。カーストの分布図を作ることによって都市計画の初期の範囲がおよそ確定できるのではないかというのがねらいである。

 チャクラヌガラというのは、本欄でかって触れた(「ロンボク島調査」雑木林の世界  )ことがあるけれど、バリ・カランガセム王国の植民都市で18世紀に建設された。その極めて整然とした格子状パターンの都市がどうしてできたのか、探ってきたのである。また、イスラーム教徒とバリ人(ヒンドゥー教徒)の棲み分けに興味があった。ロンボクは三度目であったが、ひと区切りついた。今年中には報告書を書くことになる。

 東南アジア研究も長くなったのであるが、今年は「重点領域研究」として「地域発展の固有論理」を考える研究会(原洋之助(東京大学東洋文化研究所)座長)がある。この一五年で、東南アジアの各国は目ざましい発展を遂げた。また、遂げつつある。東南アジア全域に、普遍原理としての市場原理が浸透しつつあるようにみえる。そうした中で、地域発展の固有の論理というのがありうるのであろうか。地域性というのは存続しうるであろうか。地域の生態系はどうなっていくのか、等々がテーマである。

 また、新しいテーマとして、エコハウスについて考察・考案しようというプログラムがある。旭硝子財団から研究助成を頂くことになったのである。その目的、構想は以下の如くである。

 まず、東南アジアにおける伝統的な住宅生産技術の変容の実態とその問題点を明らかにしたい。この間の伝統的民家、集落の変化は極めて激しい。伝統的な住宅生産技術は大きく変容してきた。まずはその実態を把握する必要がある。特に焦点を当てるのは、次に挙げる四つである。

 ①工業材料および工業部品の導入とそのインパクト

 ②空気調和技術の導入とそのインパクト

 ③施工技術の変容とインパクト

 ④住宅生産組織の変容

 伝統的な住居集落については、これまでテーマにしてきたのであるが、「地域の生態系に基づく新たな住居システム」を具体的に考察するためにさらにつっこんで調査したいということである。

 また、様々な試みの中から具体的な要素技術を収集し、評価する。当面焦点は絞らず、あらゆる分野にまたがってみてみたい。計画技術、材料技術、施工、設備・環境工学のそれぞれに関して、可能な限り情報収集したい。この十数年で東南アジアも大きく変わりつつあり、AIT(アジア工科大学)、マレーシア工科大学、タイ工業技術研究所、スラバヤ工科大学、また、インフォーマル・グループのビルディング・トゲザー(バンコク)、フリーダム・トゥー・ビルド(マニラ)等々、それぞれに取り組みが重ねられているはずである。

 地域産材利用のその後はどうか、リサイクル技術はどのように展開されているか、パッシヴ・クーリングなどはどうか、雨水利用やバイオガスについてはどうか、まず、現状を把握したい。

 ジョクジャカルタにディアン・デサというグループというか財団がある。彼らは伝統的なコミュニティーや技術、生活の知恵をベースとすることによって、ハウジング活動のみならずトータルに農村コミュニティーに関わっていこうとしている。具体的に、例えば、バンブー・セメントによる雨水収集、バイオ・ガス利用の新しい料理用ストーブに関してのアセスメントなどを試みている。一〇年前に出会ったのであるが、その後の展開はどうか。是非、再び訪問して、その経験に学びたいものである。

 先進諸国の取り組みや日本の過去現在の取り組みについても事例を収集する必要がある。竹筋コンクリートについては、日本に何本もの論文がそんざいしているのである。そうした様々な事例を検討しながら、最終的には、湿潤熱帯におけるエコ・ハウス・モデルを提案できればと思う。また、実際に実験的につくってみたい。

 今のところ、以上のような構想とプログラムだけである。建設省建築研究所の小玉祐一郎先生と工学院大学の遠藤和義先生と研究会を始めたところだ。小玉先生は、環境共生住宅については第一人者といっていいと思う。湿潤熱帯のエコハウスについては、取り組みが遅れているということである。遠藤先生は、これを契機に東南アジアの住宅生産組織についての研究を開始したいという。十年ほど前に全国十地域で住宅生産組織研究を一緒に開始した経緯があり、若い研究者を加えて組織的に十年計画でやっていきたいという。楽しみである。

 フィリピンについては、ルザレスさん(京都大学森田研究室)がピナツボ火山の被災者の応急ハウジングの調査を行う。地域産材利用、廃棄物の再利用に興味がある。また、牧紀夫君(京都大学小林研究室)も、災害復興応急住宅についての研究を開始しており、それを手伝う。バリ、フローレスに続いて、リアウ地震(南スマトラ)、ジャワ津波の調査を行う。

 また、研究室の田中麻里さんは、タイの建設現場の飯場の居住環境についての研究(AIT修士論文)に続いてタイの農村部の調査を計画中である。また、脇田祥尚君たちはスンダのバドゥイを調査する予定である。また、吉井君は、建材流通の問題を修士論文にする予定である。

 それぞれの研究テーマを展開しながらも、ある程度組織的に情報が収集できるのではないかと期待しているところである。

 エコハウスのモデルになるのは、おそらく、伝統的な住居集落のあり方とそれを支えてきた仕組みである。ヴァナキュラーなハウジング・システムである。それに何をどう学ぶかが一貫して問われているのだと思う。

 


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