このブログを検索

2023年2月26日日曜日

木匠塾:第六回インターユニヴァーシティー・サマースクール、雑木林の世界85,199609

木匠塾:第六回インターユニヴァーシティー・サマースクール、雑木林の世界85,199609

 雑木林の世界85

木匠塾:第六回インターユニヴァーシティー・サマースクール

 

布野修司

 

 「職人大学構想」が急ピッチで展開しはじめた。KGS(財団法人 国際技能振興財団 本部 東京都墨田区両国二-一六-五 あつまビル5F                 )が設立されて半年になるのであるが、その活動が徐々に軌道に乗りだしているのがひしひしと伝わってくる感じである。

 七月二四日には、KGSの「ぴらみっど匠のひろば」(                )が滋賀県八日市市に設立され、そのオープニング・パーティーが一五〇〇人の参加者を集めて華々しく開かれた。驚くべきエネルギーである。

 アカデミーセンターに、ハウジングセンター、ぴらみっどイベントホールに巨大な実試験センター。すぐにでも使える立派な施設群である。もちろん、半年やそこらでこれほど立派な施設ができるわけはない。財団副会長であり、SSF(サイト・スペシャルズ・フォーラム)副理事長、小野辰雄日綜産業社長が私財を財団に提供する形をとったのである。その意気込みには頭が下がる。

 職人パスポートも創られた。年会費四八〇〇円で、教育(一日五〇〇〇円の助成)、施設(「ぴらみっど匠のひろば」の利用)、サービス(国内外ホテル、リクレーション施設利用割引)、クレジットカード(キャッシング・サービス)、安心保障(傷害保険、生命保険への自動加入)、仕事(斡旋、仲介)、登録(職人工芸士名鑑への登録)など七つの特典がある。数の強さ、集まることの力が生かされる仕組みである。

 自民党を中心にした国会議員の諸先生の意気込みもすごい。職人大学設立促進議員連盟が一五〇名もの議員を要して結成され、この九月にはマイスター制度の視察に一〇人もの国会議員がヨーロッパへ出かけることになっている。「ぴらみっど匠のひろば」のオープニングには、八日市出身と言うことで、武村正義新党さきがけ代表も見えた。ドイツに留学経験があるということで、マイスター制度には随分造詣が深そうであった。

 さて、一方、どういう大学にするかも具体化しなければならない。理念は固まりつつあるのであるが、具体的な組織固めを始めなければならないのである。また、職人大学の理念がすんなりと既存の制度の枠内に収まるかどうかは予断を許されない。様々な紆余曲折が予想されるところである。

 「ぴらみっど匠のひろば」をどう使うかも大きなテーマである。とりあえず、ピーター・ラウ(建築家 ヴァージニア州立工科大学副教授)氏が、アメリカの大学の学生を日本に招いて木造の建築技術を学ぶプログラムを決定したのであるが、急いで全体計画を立てる必要がある。一週間程度の短期学習を積み重ねて、やがて恒常化していく必要がある。もっと重要なのは、地域との連携である。地域の優れた職人さんたちの技を学ぶ場を設定したいと考えている。また、木匠塾との連携も大いに追求したいと思っている。

 今年の木匠塾のインターユニヴァーシティー・サマースクール(第六回)は、去年に引き続いて、高根村と加子母村の二カ所で、七月三〇日~八月一〇日の間、開かれた。二カ所になり期間も長くなったのは、参加人数が多くなり、それぞれのグループ毎に独自のプロジェクトが展開され始めたからである。

 東西の学生が出会うメリットが失われることが危惧されるが、今年に限っては全く問題はなかったように見える。各大学の幹事が密に連絡を取り合い、見事な連携を見せたからである。学部大学院と二年三年木匠塾へ来てくれる学生が上下を繋げてくれるのも大きい。

 高根村の「日本一かがり火まつり」(毎年八月の第一土曜日 今年一〇回目)は魅力的である。今年は、京都造形大学と大阪芸術大学が屋台を出した。また、東洋大学、千葉大学、芝浦工業大学の東京組も、その日高山見学などを組み入れて、かがり火まつりの会場に集結してきた。翌日は、加子母村での懇親スポーツ大会で、翌々日のプレカット工場等の見学が共通プログラムである。

 加子母村では、高根村と同じように営林署の二棟の製品事業所の改装が今年は開始された。宿泊施設として使うためである。製品事業所のある渡合地区はすばらしいキャンプ場として整備されつつあるのであるが、電気の設備がない。自家発電装置が必要なのであるが、電気のない自然の中で暮らす経験も木匠塾の第一歩である。

 前にも記したことがあるのであるが、まず問題となるのが虫である。今年は蛾の類の虫の異常発生とかで、夜はたまらない。油断していると口の中に飛び込んできたりする。初めて木匠塾に来るとびっくりするのであるがすぐなれる。また、魚釣りをしたことのない学生が多いのに驚く。それだけ日本から自然が失われているというべきか。嬉々として魚釣りに興じる学生の顔を見ると、複雑な心境になる。とにかく、自然に触れるのは貴重な経験なのである。

 京都大学グループは、三年がかりの登り釜を完成させた。去年は素焼き止まりであったが、今年は釉薬を塗って素晴らしい焼き上がりとなった作品ができた。釜の構造も補強し、ほぼ恒久的に使えるようになった。素人がつくった釜でも一応使えるのが確認できたのは大収穫である。

 もうひとつのプロジェクトは、斜面への露台の建設である。清水の舞台、懸け造りとはとてもいかない。丸太を番線で緊結するプリミティブな手法だ。番線とシノの扱い方は、ロープ結びと並ぶ木匠塾の入門講座である。

 他のグループのプロジェクトは完成を見ていないからその全容はわからない。京都造形大学は、昨年の原始入母屋造りを山の斜面に向かって増築していく構えで、草刈り機をつかっての地業に余念がなかった。大阪芸術大学は、念願の風呂をつくるということで準備ができていた。継続的に、ものが出来ていくのは楽しいことである。

 バンガローの設計組立は、来年になりそうであるが、東洋大グループは、昨年のゲルを改良して移動住居として立派に使っていた。創意工夫もものをつくる源泉である。

 職人大学構想は大反響である。方々の自治体から誘致したいとの声がある。しかし、そんなに簡単なことではないということは、木匠塾の経験からもわかる。とりあえず、条件の整うところから、やっていくしかない。走りながら考えるのみである。

 

0 件のコメント:

コメントを投稿