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2023年2月9日木曜日

第五回インターユニヴァーシティー・サマースクール:かしも木匠塾開塾,雑木林の世界73,住宅と木材,199509

 第五回インターユニヴァーシティー・サマースクール:かしも木匠塾開塾,雑木林の世界73,住宅と木材,199509

雑木林の世界73 

第五回インターユニヴァーシティー・サマースクール:かしも木匠塾開塾

           

布野修司

 

 木匠塾の第五回インターユニヴァーシティー・サマースクールは、七月三一日~八月九日の間、岐阜県の高根村および加子母村の二ケ所で行われた。参加団体は、千葉大学、芝浦工業大学、東洋大学、そして茨城ハウジングアカデミーの関東勢に、京都造形大学、成安造形大学、大阪芸術大学、大阪工業技術専門学校、京都大学、奈良女子大学の関西勢を加えて一〇にのぼる。参加者数は、最大集結時で一三六名、延べ人数は優に一五〇名を超え、二〇〇に届かんとした。今年も大盛況、大成功であった。

 しかし、問題が無くもない。こうまで大勢になると施設の限界がはっきりしてくる。また、運営が難しくなる。食事の準備だけでも大事業である。会計だって大変である。かなりの金額を扱うことになる。

 人数が多いとグループ単位で行動することになる。今回から、朝食については、地元の商店の協力を得て、各グループ毎に食材を調達し、作ることにした。昼食は弁当とし、夕食は当番制である。見ていると、なかなか面白い。実に統率のとれたグループもあれば、てんでばらばらのグループもある。幹事役は大変である。各グループから幹事を出して幹事会を構成し、全体を運営する。木匠塾の目的は、自然に恵まれた環境の中で生活をしながら、木について学ぶことにあるのであるが、第一の意義は、集団で生活し、集団で交流するところにある。集団生活のルールを学ぶことも大切である。

 施設については、宿泊スペースが足りない。余裕をもって宿泊するにはせいぜい数十人がいいところであろう。寝袋や車の中や、実習でつくった仮設小屋の中で寝ることになる。それはそれで楽しいらしいのであるが、明け方は相当冷えるから風邪をひいたりする。最も問題なのは風呂である。車で二〇分のところにある旅館、あるいは露天風呂を使わせて頂いているのであるが、大勢で迷惑かけ放しである。時間を決めてグループ毎に利用するのであるが、ルール破りが出てくる。続いて報告するように千葉大学が昨年からシャワールームをつくったのであるが、水が冷たすぎて利用者が少ない。何日か風呂を我慢することも必要になるのであるが、最近の若い学生たちは綺麗好きで、毎日シャワー浴びないとたまらないらしい。

 お酒を飲み、開放的にもなると、いろいろトラブルもおこる・・・等々、山の一〇日間の生活はなかなか大変である。

 ところで、今年のプログラムを見てみよう。

 まず、特筆すべきは東洋大学のゲル(包・パオ)のプロジェクトである。正確にゲルの構造をしているわけではないのであるが、ゲルの形態を模した仮設の移動シェルターを建設するのが今年の東洋大学の実習内容である。高根村から加子母村に移動するのがヒントになったらしい。

 建設資材がユニークだ。垂木と壁材の主要構造部材は直径三センチほどの丸竹であるが、天蓋に使うのはタイヤ部分を除いた自転車の車輪である。また、天蓋部分には、スチール製の灰皿やビニール製の傘を使う。屋根と壁を覆うのはビニールシートである。組立にかかる時間はわずか三〇分足らず。文句無く傑作であった。十人近くが寝れる。おかげで宿泊スペースも少しカヴァーできた。

 同じく、シェルター建設をテーマにしたのが、京都造形大学と成安造形大学である。京都造形大学は、昨年の丸太による原始入母屋造りを発展させた。また、今年初参加の成安造形大学は樹上住居の建設に挑戦である。なかなか楽しい出来映えであった。

 大阪芸術大学は子どもたちのための木製の屋外遊具の制作をテーマとした。六〇センチ立方のキューブを各自がつくって組み合わせようというプログラムである。

 大阪工業技術専門学校は、音の出る階段とか、雛の声を聞く巣箱とか、サウンドスケープに関わる作品群がテーマであった。

 千葉大、芝浦工業大学は、日常施設の整備と修理にかかった。千葉大学は、昨年に続いて、浄化槽つきのシャワールームを組立てた。芝浦工業大学は、床の抜けた部屋の修理や保冷庫の整備を行った。

 また、茨城ハウジングアカデミーは、昨年一昨年に続いて、日本一かがり火祭り(八月五日)の屋台の組立に腕を奮った。

 そして、京都大学・奈良女子大学のグループは、昨年に続いて登り釜と陶芸に挑戦である。昨年は、釜を作るだけであったけれど、今年はいよいよ焼く段取りである。まずは、粘土をこねて、陶芸作品を作るところから始めた。空いた時間に陶芸教室が昨年までに完成した「蜂の巣工房」で開かれ、他のグループも大勢加わった。思い思いの作品をつくるとそれを乾かす。若干乾燥の時間が足りないけれど、火を入れることになった。ほぼ一昼夜、薪を焚いた。うれしかったのは、登り釜がちゃんと機能したことだ。火は登り釜を伝わって煙突まで確実に達したのである。今年は、釉薬を塗らず、素焼きの形にしたのであるが、本格的にやれそうである。来年度以降が楽しみである。製材で余った木片を薪にした陶芸も木匠塾の売り物になるかもしれない。

 ところで、今年は、八月八日には加子母村の渡合(どあい)キャンプ場に移って、第一回のかしも木匠塾の開塾式を行った。今年の一月、五月と続けてきたかしも木匠塾フォーラムの延長で、今後加子母を拠点とした構想をさらに練るためにである。加子母村は、本欄で触れた(雑木林の世界   一九九五年七月)ように、東濃ひのきの里として知られる。神宮備林も営林署の管内にある。また、産直住宅の村として知られる。その加子母村が、木の文化を守り育てる拠点づくりの一環として、木匠塾を誘致したいという。有り難い話である。

 しかし、これまでの木匠塾であるとするといささか荷が重いかもしれない。パワーアップが必要である。それにしても、高根村にまさるとも劣らない自然環境である。しかも、施設用地も提供して下さるという。もちろん、木匠塾のみで利用するのではないにしろ、夢膨らむ話である。具体的には、バンガローを一戸づつつくる話がある。学生参加のコンペにし、優秀作品を実際に作ろうというアイディアも出始めている。また、研修施設としての製品事業所の改造、新たな建設のプログラムもある。一朝一夕には出来ないであろうが、かしも木匠塾も今後具体的な可能性を様々に追求していくことになる。





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