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2023年2月24日金曜日

明日の都市デザインへ,雑木林の世界82,住宅と木材,199606

 明日の都市デザインへ,雑木林の世界82,住宅と木材,199606


雑木林の世界82

明日の都市デザインへ

布野修司

 

 (財)国際技能振興財団(KGS)の設立総決起大会(四月六日)は大盛会であった。現職大臣四名と元首相、国会議員が秘書の代理も合わせると三十有余名、住専問題で大変な国会の最中にも関わらずの出席であった。職人一二〇〇名の大集会というのは、大袈裟に言えば戦後、否、近代日本の歴史になかったことではないか。職人大学の実現に向けての動きもさらに加速されることになる。

 KGSには評議員で参加することになったのであるが、SSF(サイト・スペシャルズ・フォーラム)は全面的にKGSを支えて行くことになる。

 KGSの最初の仕事はスクーリングである。茨城で六月二日から一週間の予定だ。茨城は、ハウジングアカデミーで親しい土地柄である。第一回のスクーリングが茨城となるのも何かの因縁であろう。

 茨城ハウジングアカデミーも参加してきた木匠塾は、SSF、KGSの動きと連動しながら今年も準備中である。加子母村(岐阜県)にウエイトを移しながら、また、学生の自主性にウエイトを移しながら、新たな展開が期待される。バンガローの建設など実習プログラムに村は全面協力の姿勢である。

 

 去る四月二四日、「明日の都市デザインへ」と題した三和総合研究所(大阪)の「都市デザインフォーラム」に参加する機会があった。『明日の都市デザインへーーー美しいまちづくりへの実践的提案』という報告書がまとまり、コメントして欲しいということで出かけたのである。

 「都市デザインへの提案~アーバン・アーキテクト制をめぐって~」ということで、景観問題について、昨年の全国景観会議(一九九五年九月 金沢)の際の基調講演とそうかわらない話でお茶を濁したにすぎないのであるが、報告書そのものはなかなかに刺激的であった。というのも、その報告書の中には全国の景観行政、都市デザイン行政の様々な取り組みが集められているからである。理念や条例やマニュアルよりも様々な試行錯誤が興味深いのである。

 例えば、景観資源に関する調査として、「校歌に歌われる山、川」を調べたり、言葉のアクセントの分布を明らかにした例がある(栃木県)。市街地における湧水の分布を調べたり(八王子市)、海からの景観把握を試みたり(下関市)、必ずしもマニュアルに従ってワンパターンというわけではないのである。

 景観行政は、あるいは景観問題へのアプローチはまずデザイン・サーベイからというのは持論である。「タウン・ウオッチング」でも「路上観察」でも、身近な環境を見つめ直すことが全ての出発点であり得る。

 先の報告書は、実践的都市デザインの提案として、一連のプロセスを提示している。

 『建築・街並み景観の創造』(技法堂)をまとめた段階では極めて素朴であった。具体的内容は著書に譲りたいけれど、「景観形成の指針ー基本原則」として、地域性の原則、地区毎の固有性、景観のダイナミズム、景観のレヴェルと次元、地球環境と景観、中間領域の共有といったことを考え、景観形成のための戦略として、合意形成、ディテールから、公共建築の問題、景観基金制度などを検討してきたにすぎない。しかし、報告書は豊富な事例とともに大きなフレームを提示してくれている。大助かりである。実践的提案の部分を具体的に紹介しよう。

 全体のプロセスは、意識醸成→企画・計画→実践→評価→という螺旋状のプロセスとして想定されている。各プロセスのポイントは以下のように整理される。

 

Ⅰ 意識醸成         

  ①デザイン・サーベイの実施

 ②行政主導のコンセンサスづくり:住民参加型都市デザインの誘導

 ③キーパーソンの発掘と育成

 ④戦略的情報発信

Ⅱ 企画・計画           

  ①コンテクストを生かしたデザイン計画

 ②インセンティブの付与

 ③すぐれたデザインを誘発する発注方式

 ④デザイン誘導しやすい事業手法

Ⅲ 実践       

  ①デザインをコーディネートする「人」:アーバン・アーキテクト制度

 ②デザインと意志決定のオープンシステム

 ③行政のイニシアチブとデザイン誘導

 ④建築と環境のコラボレーション

 ⑤地域特性やデザインの目的に合致した「アート構築物」のデザイン

 ⑥技術の伝承とクラフトマンシップの再認識

 ⑦工業製品の活用と「固有性」への対応

Ⅳ 効果           

  ①評価

 

 こうして項目だけ並べても伝わらないのであるが、それぞれに具体的な事例をもとにしたアイディアの提案があるわけである。実践的提案を唱うそれなりの自負がそこにはある。このシナリオ通りに都市デザイン行政あるいは景観行政が動いて行けば日本の都市(まち)づくりは面白い展開をしていく可能性がある。少なくとも様々なヒントがある。

 ただ、最終的に問題になるのはこのシステムを動かしていく仕組みである。上で言う、「人」の問題である。あるいは、行政と住民との関係の問題である。都市デザインに関わる意志決定システムをどう具体化するかである。

 地方自治の仕組み全体に関わるが故にその仕組みの提案は用意ではない。しかし、報告書は面白い海外の事例をあげている。

 シュバービッシュ・ハル市には、二人の副市長がいて一人は建築市長なのだという。また、ミュンヘン市にはアーバン・デザイン・コミッティーがあって、デザインの調整を行っているという。構成メンバーは、フリーの建築家四人、都市計画課職員三人、建築遺産課職員一人、州の建築遺産課職員一人の八人で三年毎にメンバーを入れ替えていく。権威主義的なメンバーは排除されるのだという。

 日本の風土の中でアーバン・アーキテクト制はなかなか動かない。しかし、百の議論よりひとつの事例は変わらない指針である。

 






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