木匠塾 第四回インタ-ユニヴァ-シティ・サマ-スク-ル,雑木林の世界62,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センターセンタ-,199410
雑木林の世界62
木匠塾
第四回インターユニヴァーシティー・サマースクール
布野修司
木匠塾(岐阜県高根村)の第四回インターユニヴァーシティー・サマースクールが始まった(8月2日)。2日に先発隊が宿舎整備を行い、3日に開校式。レクチャー等は例年通りであるが、今年は実習のプログラムが盛り沢山である。4日、以下のリストの各プロジェクトが一斉に動きだしたところだ。ワープロを持ち込んだので日誌の形で実況中継しよう。
8月4日:①太陽熱利用の温水化装置(芝浦工大)は、上家の屋根を利用。ポンプで水を屋根に揚げて、しし脅しの原理で水を流す実験を行う。②涌き水利用のクーリング装置(芝浦工大)は、恒久施設として施工開始。③工房建設計画(大阪芸術大学 茨城ハウジングアカデミー)は、物置小屋の改修計画。④施設周辺測量(京都大学)は、浜崎一志先生(京都大学)指導の最新コンピューター測量である。基準点を固定するためにモルタルを使う。モルタル用に川砂を採集するところから開始である。⑤施設周辺整備:物見の塔建設、上家、下家連絡通路建設(東洋大学)。⑥浄化槽付きシャワー室建設(千葉大学)は、仮設の足場用のシステムを使用、防水シートと組み合わせてシャワー・ルームをつくる。浄化槽は活性炭が高いので木炭を利用して濾過、とりあえず浸透式で考える。⑦原始入母屋実験住宅建設(京都造形芸術大学)は、試行錯誤を開始。皮を剥く作業が初めてなので苦労する。⑧登り釜建設(京都大学)は、焼き物をやろうと計画。耐火レンガ等調達に出かける。⑨高山祭屋台模型製作(京都造形芸術大学 茨城ハウジングアカデミー)は、毎年試行錯誤。今年は十分の一の臥龍台の図面が手に入った。⑩日本一かがり火まつり屋台改修計画(京都大学 茨城ハウジングアカデミー)は、昨年の部材の確認。黴落としから。⑪修了証焼き印製作(奈良女子大学)は、丸太をバウム・クーヘンのように輪切りする。鋸を使う練習である。
8月5日:①は据え付け開始。②は完成。③は、床に敷く枕木が届いて、どんどん進行。ほぼ完成。設計、準備とも順調。草木染めを開始。夜には完成パーティー。④は、岩風呂計画等今後の施設計画のためのデータつくりに励む。凧を揚げて上空から撮る凧写真は失敗。⑤は、傾いた舞台を元に戻し、番線を締め直す。⑥は3Sシステムの加工は完了。⑦は準備不足で試行錯誤が続く。丸太の皮剥き、緊結用の番線の作り方、シノの使い方から学習。⑧は、て穴を堀出した。⑨は8日以降開始予定。⑩は、今年は親子格子を付け加える。製作開始。⑪は、焼き印を押し出す。ほぼ出来た。
8月6日:日本一かがり火まつり。昨晩から、その準備で大童。今年のメニューは、焼き鳥、蛸焼き、おでん、ビールに地酒である。焼き鳥は一千本、昨晩、午前一時までかかって串刺しを用意した。かがり火祭りはすごい。地上高く燃え上がる三基の他に、点々と燃える小さなかがり火が効果的に配置されている。最後に打ち上げられる花火も間近に見上げる形で、火の粉が降り懸かってくる迫力だ。今年、飛び入り参加のデンマークからの研究生ハンセン君は、大感激である。みんなで松明をもって行列に参加した。販売の屋台は、もう、戦場である。呼び込みの甲斐もあって、ビールを除けば完売。今年の総売上はどうか。
8月7日:祭りの興奮醒めやらぬうち、交流スポーツ大会。オケジッタ・グラウンドでの野球大会は、東洋大秋山研究室主体のチームが優勝。広いところで凧写真を再度揚げるも風がなくてまたしても失敗。カメラが少し重い。一方、⑦は、遅れを取り戻すべく、作業続行。夕方までにほぼ完成。夜はバーベキュー・パーティー。桜野功一郎さんの高山祭りについてのレクチャー。後は大宴会。
8月8日:一日作業。①は、しし脅しの仕掛け完成。完成まで後一歩。③の工房は蜂の巣工房と命名。冬の雪に備えて封鎖。④の測量は施設周辺の測量をほぼ修了。上家と下家の連結部分に集中。コンピュータの威力はすごい。瞬時に三次元の座標を出してくれる。⑥の浄化槽付きシャワー室は木炭が届かないため未完成。千葉大学チームは後を他に託して引き上げる。⑧の登り釜建設が本格的の始まる。穴堀にほぼ一日かける。⑨の高山祭屋台の模型製作も開始。入手した図面を読む。模型材料が足りないか。夜は恒例のロシアン・ルーレットゼミ。誰に当たるか分からない緊張感でゲーム感覚もあるゼミ方式である。
8月9日:高山へ出かける日。まず、高山祭りの模型(五分の一)を造っているお宅へ行って見せてもらう。その後、飛騨産業で家具の製作工程を見学。高山市内を見て、午後はオークビレッジと森林魁塾の見学。毎年のコースでお世話になっている。京都大学チームは、居残りで、登り窯の製作続行。僕は、京都造形芸術大学の坂本君と屋台模型製作の下準備。午前中に構造部材を揃える。後は、登り窯製作に参加。組積造は、また、柱梁とは全く異なる。耐火煉瓦をレヴェルを合わせながら積んで行くのはなかなか難しい。耐火モルタルを使うのも初めてである。夜は、高根村の荒井さんの「高根村の総合計画」についてのレクチャー。人口八四五人の全国で二七番目の小さな村だとか、色々な悩みを聞く。かがり火祭りにいくらかかっているかなど、色々な質問が飛んだ。
8月10日:⑧の登り窯チームは、朝五時から作業開始。必死に今年の予定完了を目指す。⑨の高山祭屋台模型製作は、昨晩、チーム編成。一気に完成を目指す。一方で解体作業が進む。①の太陽熱利用の温水化装置は、一応実験成功、シャワーを浴びて、装置分解保存。⑥の浄化槽付きシャワー室建設は、木炭届かず、残念。分解部品保存。⑦の原始入母屋実験住宅は、骨組みだけ残して解体、部品保存。⑧の登り釜は、煙突二五段積みまでついに完成。煙が登る実験ののち越冬のための養生を検討。⑨の高山祭屋台模型製作は、いくつかのパーツは完成するも、組み立てるに至らず、断念。京都造形芸術大学が持ち帰って完成することにする。仕事を終えたチームは、高山へ出かけたり、沢で釣りで楽しんだ。夜はフェアウエル・パーティー。奇想天涯のゲームに楽しく最後の夜を過ごす。灯を消して空を見上げると、満天に無数の星が皆を包むように降り注ぐ感じである。
8月11日:宿舎後片づけ。修了証書授与。解散式。
以上、今年も特に大きな事故はなく、ますます充実する木匠塾サマースクールは無事修了したのであった。
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