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2026年3月24日火曜日

アジア海域世界の港市ー異文化共生の原理ー店屋と四合院、科研費、出版助成、2024年度応募

 アジア海域世界の港市ー異文化共生の原理ー店屋と四合院

1 著者(編者)の主要著書・論文・研究歴等

著者(編者)の次の点について過去から年次順に記述すること。

   主要著書の題名、出版社等名、及び発行年

   主要論文名、掲載された雑誌名、及び発表年

   主要職歴及びこれまでの主な研究内容

なお、著者(編者)が多人数のため、書ききれない場合は、代表して何名かの著者(編者)について、収まる範囲で記述すること。

主要著書(*1*4 は受賞作

布野修司編:アジア都市建築史,アジア都市建築研究会,昭和堂,2003 (亜州城市建築史,胡恵琴・沈謡訳,中国建築工業出版社,2009

布野修司編:近代世界システムと植民都市,京都大学学術出版会,2005 *1

布野修司編:世界住居誌, 昭和堂,2005 (胡恵琴訳中国建築工業出版社2010

布野修司:曼荼羅都市ヒンドゥー都市の空間理念とその変容,京都大学学術出版会,2006

Shuji Funo & M.M. Pant“Stupa & Swastika” Kyoto University Press + Singapore National University Press 2007

布野修司+韓三建+朴重信+趙聖民:韓国近代都市景観の形成-日本人移住漁村と鉄道町,京都大学学術出版会,2010 *2

布野修司・ヒメネス・ベルデホ,ホアン・ラモン:グリッド都市-スペイン植民都市の起源,形成,変容,転生,京都大学学術出版会,2013 *3

布野修司:大元都市-中国都城の理念と空間構造-,京都大学学術出版会,2015

布野修司+田中麻里+ナウィット・オンサワンチャイ+チャンタニー・チランタナット:東南アジアの住居 その起源・伝播・類型・変容,京都大学学術出版会,2017

布野修司編:世界都市史事典,昭和堂,2019

布野修司:スラバヤ 東南アジア都市の起源・形成・変容・転生コスモスとしてのカンポン―, 京都大学学術出版会,2021

主要論

学位請求論文『インドネシアにおける居住環境の変容とその整備手法に関する研究ーハウジング計画論に関する方法論的考察』(東京大学,1987 *4

Shuji Funo The Spatial Formation of Cakranegara Lombok in Peter J.M. Nas (ed.) Indonesian Town RevisitedMuenster/Berlin Lit Verlag2002

Shuji Funo: Ancient Chinese Capital Models-Measurement System in Urban Planning-, Proceedings of the Japan Academy Series B Physical and Biological Sciences, November 2017 Vol.93 No.9, 721-745

主要職歴・研究内容・受賞

1976      5月 東京大学助手 1984 4      東洋大学助教

1991   9月 京都大学助教授

2005 4月   滋賀県立大学大学院環境科学部教授 環境科学部長 副学長 理事

2015 4 月   日本大学生産工学部建築工学科特任教授 2020 4月 同 客員教授

地域生活空間(建築)計画研究,アジア都市組織研究,地域の生態系に基づく住居システムに関する研究,アジア都市建築史研究専攻。日本建築学会副会長(20112013 年)。名誉会員(終身)。上記*1*4 の図書・論文で,各種学術賞を受賞。*1 2013 年日本建築学会著作賞*2平成 17 年度日本都市計画学会論文賞,*3 2015 年日本建築学会著作賞,*4 1991 年日本建築学会賞論文賞。


 刊行の目的及び意義

当該刊行物を刊行するに当たって、次の点について、焦点を絞り、具体的かつ明確に記述すること。

   当該刊行物と類似・関連する国内外の研究成果等を適宜引用し、それらとの違いを明確にした上で「刊行の目的」、「意義」、「学術的価値」及び「国内外における当該刊行物の位置づけ」について具体的に記述すること。

   当該年度(又は翌年度)に刊行する意義及び学術的価値について記述すること。

※当該年度:令和6(2024)年度、当該年度翌年度(令和7(2025)年度)

刊行の目的,意義,学術的価値及び国内外における当該刊行物の位置づけ

本書が意図するのは,「アジア海域世界」そして「港市」を対象として,「港市」の基本特性を明らかにするとともにその地域性と多様性を生む原理を明らかにすることである。その前提として,アジア海域世界の代表的港市について,その起源,形成,変容,転成の過程を,臨地調査を基にして都市組織(アーバン・ティッシュurban tissuesurban fabrics),すなわち,都市の形態あるいは空間構成(街路体系,街区構成,住居形式 棲み分けのパターン……)に焦点を当てて明らかにしている。

本書の背景にあるのはこの間の海域研究の展開である。海域研究の嚆矢とされるの F.ブローデル(199195)の『地中海』(Braudel 1949)である。地中海を取り巻く地域を生態的基盤を共有する一つの世界としてとらえ,世界史をダイナミックに描き出そうとする試みは,「陸域」の分割・統合をめぐって叙述されてきた世界史のフレームに大きなインパクトを与えることになった。『地中海』以降,C.N.チョウドリーを先駆として,アジア海域世界(インド洋海域世界)に軸足をおいた海域研究が様々に展開されてきた。日本における海域研究の先駆となるのは,ブローデルも「ギリシャ・ローマの華々しい古代文明史と近代世界システムのもとに統合化されていく西ヨーロッパ勢力による世界の海域征服史であり,「大航海時代」を美化しようとする「ヨーロッパ中心史観」を脱し得ていない」として,インド洋海域世界そしてアジア海域世界全体に視野を広げてきた家島彦一である。その後,東アジア海域については,「東アジアの海域交流と日本伝統文化の形成寧波を焦点とする学際的創生科研費特定領域研究)(20052009)が展開され,その成果が,小島毅監修(2014『東アジア海域に漕ぎ出す』全 6 巻,小島毅監修201018)『東南アジア海域叢書』~20 としてまとめられつつある。また,歴史学研究会編20052006)「シリーズ 港町の世界史」3 巻などがまとめられている。

「陸域」と「海域」の接点に位置し,「陸域」と「陸域」を連結するのが港市である。海域研究が主題とするのは,交換される「人」「物」「情報」であり,その担い手(航海士,商人,伝道師)である。しかし何故か,「人」「物」「情報」が交換される場所,その担い手が居住する港市の空間そのものはほとんど問題にされない。ブローデルにしても,環境の役割を第一に主張するにも関わらず,個々の都市の形態や空間構造の差異への関心が決定的に欠けている。地中海の心臓部における主要都市としてバルセロナ,マルセイユ,ジェノヴァなどを挙げるが,形態は基本的に同じだとし、唯一ヴェネツィアについて人口分布図と添付の分布図を示すけれど,港市の形態,空間構成には触れない。また家島も,港市の形態,役割と機能,その立地について分類するが,港市の形態あるいは空間構成については追究していない。各港市の性格が相当に異なっているにもかかわらず、民族や生業の多様性などの表現で極めて単純化、一般化されてしまっている。本書が焦点を当てるのは,「人」「物」「情報」が交換される「場所」すなわち「空間」である。家島は,歴史的港市について 101 の港市をリストアップするが既に廃墟となった港市が少なくない。本書は,現在に至るそれぞれの海域を代表する港市44をとり挙げる。その立地、誕生、変容の歴史、影響下にあった世界宗教や文化圏などの違いは、各港市の過去、現在、未来に極めて大きなバリエーションを与えてきた。こうした違いを明瞭に反映しているのが、街区構成であり「都市組織(urban tissues)」である。本書は、建築史、都市史の立場から歴史文献を精査・再評価し、それを現地のフィールドワークで補完することで、各都市の空間構成を明らかにして、その性格を再考しようという試みである。さらに,本研究は、国際関係の軋轢が表面化しつつあるアジア海域世界において,急速に変容しつつある港市の変容の過程をヴィヴィッドに記録するという,世界の現代都市研究に議論の視点と具体的な資料を提供する意義を有している。

本書の編者,申請者は,この間いくつかの研究テーマ,フレームを仮構しながら,アジアを中心として様々な都市について臨地調査を積み重ねてきた。その中には多くの港市が含まれていたが,振り返ってみると,これまで焦点を当ててきた都市は基本的に「陸域」の都市であり,視点も「陸域」からみた都市(外港)であった。一方,海域や港市をテーマとした研究は数多いが,その空間構成を歴史的に分析したものは少なく,『スラバヤ――コスモスとしてのカンポン』はそうした試みであったが,ジャワ世界の単一の都市の分析にとどまっている本書が意図するのは,「アジア海域世界」全体を対象として,「港市」の基本特性を明らかにすることである。人類の歴史において,またアジア海域世界において港市が果たした役割を大きく振り返ることによって,その連結機能を見直し,アジアの諸都市を対象とする都市組織研究の共通の基礎を提起する,大きな学術的価値を有している。

 

海は本来「無主」の場であり,「自由」の場であった。そして,港市は,外部から来る多様な人々に対して,身の安全,滞在の自由,自治的裁判権,物の保管。貯蔵と交換の自由などを保証し,この中立性がさまざまな人間を集合させ,物・情報を交換することを可能にしてきた。港市の自律性,交易・契約の自由,多様性の許容,多民族共住といったルール,原理,システムを生んできた。いま,ネットワーク社会について議論される分散型自立組織DAOに通じる,その原型が浮かび上ってくるのではないか。港市のあり方が示唆するのは,出自を異にする様々な民族集団の棲み分けの原理であり,異文化共生の原理である。

 

当該年度(又は翌年度)に刊行する意義及び学術的価値

都市の歴史は,専ら西欧の都市の歴史を中心に書かれてきた。アジアの都市も基本的には西欧の都市概念を基準として,西欧的視点から扱われ,扱われること自体がそもそも少ない。申請者は,この間,『曼荼羅都市』『ムガル都市』『大元都市』といった著作によってアジアの都市の形成過程について大きなフレームを示す一方,『近代世界システムと植民都市』『グリッド都市』といった著作によって,植民都市のアジアにおける世界史展開についても,ひとつのパースペクティブを示してきた。さらに,あるひとつの都市の起源,形成,変容,転生の過程に都市のグローバルヒストリーを読む試みとして『スラバヤ――コスモスとしてのカンポン』を上梓することもできた。

本書はその研究蓄積の上に立ち,港市に焦点を当てることによって,これまで追究してきたアジアに視点を置いた世界都市史の試みを集大成しようとするものである。アジア海域世界は,ヨーロッパ諸国が進出することによって「ヨーロッパの海」と化し,さらに「経済の海」と化した。そして,海域世界は,基本的に「陸域」の「国家の領海」と化しつつある。文化的背景を異にする地域と地域を媒介してきたかつての港市は,グローバリゼーションの波の中で,急速に変容している。生で観察できる過去の痕跡が日々消失する今日,この時期を逃しては,一都市から世界史を描くという方法論を今後の都市史研究に残すことが難しくなる。また先述したように,国際政治においてアジア海域世界を一つのものとして繋げる動きがある中で,その地域性・多様性を論じることは学問の役割でもある。その点で,できるだけ早く本書を刊行し,新たな研究の展開に寄与したいと考える。


 


3 刊行物の内容(概要)

当該刊行物の内容について次の点について記述すること。

   当該刊行物の目次の項目及び各項目の頁数について列記すること。

   当該刊行物の概要について、目次に記載した編・部・章等の単位でまとめ、それぞれ記述すること。必要に応じて完成した原稿の内容(図表等含む)を用いること。

なお、本欄は、審査を行う上で重要な欄であるため、内容が的確に把握できるよう、十分検討の上記述すること。

アジア海域世界の港市異文化共生の原理 目次と頁数

1p38 ×35 行=1330 字(図表込)800

口絵(8p

目次(4p

図表リスト(12p

はじめに(2p

序章(22p

1 海域世界と港市/2 コスモロジーとネットワーク/3 港市/4 植民都市/5 店屋=ショップハウス・ラフレシア/6 本書の構成

アジア海域世界の港市58p

1アジア海域世界/2航海記の中の港市/3船と航海術/4陶磁の道/5海洋遺産中考古学の展開

東アジア海域の港市205p

1東アジア海域の興亡

東シナ海域・日本海域/2-1 日本の港市/2-2 博多/2-3 長崎/2-4 釜 山 Column Ⅰ 朝鮮半島の漁港/2-5 那覇琉球王国の外港/2-6 寧波/都市住居の類型TUD 四合院/Column Ⅱ 倭寇と海禁

3 台湾海峡/3-1 台湾/3-2 台北/3-3 馬公(澎湖島)/3-4 福州/ 3-5 泉州/3-6 漳州/Column Ⅲ  F.ザビエルとポルトガル海商

南シナ海域/4-1 広州/4-2 マカオ/4-3 海口/都市住居の類型TUD 柴欄厝・手巾寮・竹筒屋

東南アジア海域の(150p

東南アジア海域の興亡

フィリピン海域スペイン帝国と中華帝国の邂逅/2-1 スペイン東インド/2-2 マニラ

3 ヴェトナム海域/3-1 ハノイ/3-2 ホイアン/3-3 プノンペン/ColumnⅣ 南洋日本町と御朱印船

タイランド湾/4-1 アユタヤ/4-2 パタニ/4-3 ソンクラー

マラッカ海峡/5-1 シュリーヴィジャヤとマジャパヒト/5-2 マラッカ/5-3 バンテン/5-4 ジョージタウン/5-5 シンガポール都市住居の類ショップハウス・ラフレシア

インド洋海域の港市262p

インド洋海域の興亡/都市住居の類型 ハヴェリ

ベンガル湾海域/2-1 エーヤワディ流域/2-2 ヤンゴ/2-3 コルカタ/Column Ⅴ 仏教の伝播

3 南インド海域/コロマンデル海岸/3-1 チェンナイ/3-2 ナガパットナム/  3-3 ラーメシュワラム/スリランカ/3-4 ゴール/3-5 コロンボ/都市型住居の類型 オランダのテラスハウス/マラバール海岸/3-6 コーチン/3-7 コージコード/3-8 ゴア/3-9 ムンバイ/ColumnⅥ 大英帝国とアジア

グジャラート海域/4-1 スーラト/4-2 カンベイ/4-3 ムンドラ

アラビア海域/5-1 マスカト/5-2 アデン/5-3 モカ/都市住居の類型都市住居の起源

アフリカ東沿海/6-1 ラム/6-2 モンバサ/6-3 ストーンタウン/6-4 キルワ

結章 異文化共生の原理 分散型自立組織を目指して39p

1アジア海域世界の現在/2港市ネットワークの世界史/3港市の形態/4棲み分けのかたちー異文化対立・融合・共存/5店屋と四合院都市住居の世界史

あとがき(2p)/執筆担当・参考文献/学位論文(修論・博論)/関連論文(21p)/索引(13p

 

アジア海域世界の港市異文化共生の原理 概要

序章において,本書の基本的な視点,問題意識,そしてその背景を明らかにしている。

アジア海域の港市に焦点を当てる大きな理由は,港市が,これまで『曼荼羅都市』『大元都市』などによって明らかにしてきたコスモロジー型の都城とは異なるネットワーク型の都市であることである。『ムガル都市』では,イスラーム都市をネットワーク型の都市として規定したが,実際,アジア海域世界における港市のネットワークを大きく形成したのはイスラームのネットワークである。しかし,逆に港市のネットワークがイスラームの伝播に大きな役割を果たしたことが指摘される。アジア海域世界を行きかった「人」「物」「情報」は多様であり,重層的である。港市のネットワーク港市のネットワークはダイナミックに生成し,変化する。イスラームのみならず,インド都城の系譜の東南アジアへの展開を媒介したのも,中国都城の東南アジアへの展開を媒介したのもアジア海域世界の港市である。イスラームにひとつの都市の形態にコスモス(世界=宇宙)を投影させる思想はない。マッカ,マディーナそしてエルサレムを中心とするイスラーム都市のネットワーク全体がひとつのコスモスを形成している。それに対して,予め,港市を都市国家としての港市 Independent Port CityPI),内陸国家に従属する港市(外港)OutportPO),海域交易国家 Maritime Trading NationPM)に分けたが,PIPMという類型は,自律分散型都市のモデルとなるというのが本書の視点である。

港市は,多様な民族,文化,価値体系を許容する空間である。港市の基本特性について,その原初的形態であるギリシャのペリウスに代表されるエンポリアムに遡って,その境界性,連結性,媒介性,さらにその類型などについて既往の議論を整理した上で,本書が港市の棲み分けの空間構造,そして,港市を構成する都市住居の形式,とりわけ,東アジア海域から東南アジア海域にかけて建設された店屋=ショップハウスに焦点を当てる意義を説いている。ショップハウスという英語は中国語の店屋の直訳であり,S.ラッフルズが建設したシンガポールにおいて定式化され,東南アジア各都市のみならず中国華南そして台湾に「騎楼」と呼ばれる逆輸入された興味深い都市住居の形式である。

 

では,アジア海域世界を成り立たせてきた基本的な事項,海域区分,モンスーン,船と航海術など航海を支えたインフラストラクチャー,人類の拡散からオーストロネシア世界の成立,陶磁の道などこれまで考古学によって明らかにされてきたことをまとめている。そして,数少ない史料として断片的に用いられてきた,『エリュトラー海案内記』,マルコ・ポーロの『東方見聞録』,イブン・バットゥータの『大旅行記』,鄭和の「西洋下り」に参加した馬歓の瀛涯勝覧』,費信の『星槎勝覧』(1436),トメ・ピレス『東方諸国記』について全体を精読し,記載される歴史的港市を重ね合わせている。本書が扱う港市がアジア海域世界を代表する港市であることが確認される。海域における人類の営みは,例えば,沈没船という形で海中に遺構として残され,今日に伝えられる。最後に,近年の水中考古学あるいは海洋考古学の動向にも触れた。

 

章~第章は,海域毎にまず海域全体を概観し,重要な役割を果たした港市とその

ットワークについてその歴史をまとめている。そしてさらに小海域毎にそのネットワークの重要局面について港市間の関係に焦点を当てている。また,各海域について,さらにアジア海域全体にかかわるテーマについてColumn朝鮮半島の漁港, 倭寇と海禁,  F.ザビエルとポルトガル海商, 南洋日本町と御朱印船, 仏教の伝播, 大英帝国とアジア)を設けた。

各港市については,1港市の歴史,地域の生態基盤,2都市形成,3都市構成,4都市住居の類型と変容という共通のフレームでまとめている。

例えば,泉州(第Ⅱ章3-5)については,1 泉州と異邦人として, シーラーフ(施那愇,尸羅囲)との関係,市舶司蒲寿庚,マルコ・ポーロ,フランシスコ会の修道士ポルデノーネのオドリコ(12861331),マリニョーリ(1290 1357,イブン・バットゥータについて触れた上で,2泉州の都市形成をまとめている。そして臨地調査をもとに現在の鯉城区の空間構成を明らかにし,「大厝」「手巾寮」「騎楼」という3つの都市住居類型のそれぞれの変容型を明らかにしている。

都市住居の類型TUDについては各地域について基本型についてまとめている(Ⅰ 四合院,Ⅱ 店屋と亭子脚,Ⅲ 柴欄厝・手巾寮・竹筒屋,Ⅵ ショップハウス・ラフレシア,Ⅴ ハヴェリ,Ⅵ オランダのテラスハウス,Ⅶ 都市住居の起源)。

 

東アジア海域の港市については,市舶司が置かれた寧波,泉州,福州,広州を中心に,北海(東シナ海),台湾海峡,南海(南シナ海)に分けて,日本との関係では,博多寧波,那覇福州,平戸・長崎マカオ,東南アジア海域との関係で,漳州-マニラ(ガレオン交易),華人の東南アジア移住の中継港市として海口をとりあげている。

東南アジア海域の港市については,基本的に A.リード1997,2002のいう交易の時代1450-1680以降を扱うが,ポルトガル(マラッカ),スペイン(マニラ),オランダ VOC(バンテン),英国(ジョージタウン,シンガポール)といった西欧諸国の建設した港市の他に,南洋日本町が形成されたアユタヤ,プノンペンも加えている。

 

章 インド洋海域の港市については,コロマンデル地域のチェッティ,チュリア,南インド地域のマニグラーマム(商人村),アイニューットゥルヴァル(500 人組),グジャラート地域のバニヤ,ボーラ,ホージャなど,港市を股に掛けたインド商人を海域区分している。ハイライトは,オマーンのマスカット,東アフリカのザンジバル,ラムといった港市へ移住したことが知られるボーラなどグジャラート商人である。

 

結章では,経済の海と化したアジア海域の港市の現状をコンテナ貨物量をもとに比較し,歴史的港市の立地がそれなりに現在に引き継がれていることを確認した上で,港市の原型としての地中海モデルを念頭に港市ネットワークの世界史の枠組みを提示した。港市の全体形状は自然地形によって大きく規定されること,港市は沿岸部の変化に従って変化していくこと,港市の場合,都市の理念型を幾何学的な秩序として表現することは極めて難しいこと,港市は海(川)によって境界づけられる一方,線状の沿海部から自由に出入りするがことができることを確認している。

そして,棲み分けの異文化対立・融合・共存のかたちとして,唐人町,蕃坊,チャイナタウン,南洋日本町,カンポン・アラブ,リトル・インディア,カースト別・宗教別・商人集団別棲み分け,ホワイトタウン・ブラックタウン,商館,疎開など多様なあり方について確認した。そして,都市住居については,港市に限らず,中庭式住居-コートハウスそして街屋-タウンハウスが普遍的形式として見られる一方,店屋=ショップハウスという形式が港市において成立した可能性を示唆した。また,19 世紀から 20 世紀にかけて東南アジアから中国南部にかけて,ダイナミックな伝搬拡散過程があったことを確認した。そして,こうした都市住居の形式の伝播はインド洋海域の港市でもみられ,グジャラートのガラの形式は,主として有力商人であったボーラ商人によって建設されてきたとされるが,ボーラ商人などグジャラート商人が移住していったオマーンなどアラビア半島南部,そしてスワヒリ沿海部の港市にも同様の形式をみることができる。また,各地域の都市住居の差異は,ファサードのデザイン,テラス,ヴェランダ,バルコニー,そしてドアなどのデザインの際に表現される。その最もわかりやすい例としてザンジバルのストーンタウンの3種類のドアインド,オマーン,スワヒリ)をまとめとしてあげている。

 

本書の基になる公開済み論文な

該当しない。各港市について臨地調査をもとにした以下のような論文(泉州について例示)は公表されているが,全体はオリジナルの論考である。

趙冲,布野修司,川井 操:泉州鯉城区(福建省)の住居類型とその分布に関する考察 Considerations on distribution of house types of Licheng District(Quanzhou Fujian),日本建築学会計画系論文集,77巻,No.669pp20332040201111

趙冲,布野修司,川井操:泉州鯉城区(福建省)の住居の平面構成とその変容に関する考察 Considerations on Transformation of House Plan of Licheng DIistrict (QUANZHOU FUJIAN),日本建築学会計画系論文集,pp24992506,第77巻,NO.6812012.11


4 本刊行物が学術の国際交流に対して果たす役割

当該刊行物の刊行が、学術の国際交流に対して果たす役割(例えば日本独自の文化、歴史等についてとりまとめた研究成果を外国語で刊行することにより、海外における当該研究領域にもたらす効果、国際的に行われている学術研究領域において当該刊行物が果たす役割等)について記述すること。

特に、翻訳・校閲の上、刊行する場合は、本刊行物を広く海外に提供することの目的及び意義について、必ず記述すること。

なお、学術の国際交流を目的としていない場合は、「該当しない」と記述すること。

本書のもとになっているのは基本的には国際共同研究である。東アジア海域の中心となる港市である福州,泉州,漳州,広州,さらに海口については,現在,福州大学に所属する趙冲教授との共同調査である。また,パタニ,アユタヤについてはチェンマイ大学のナウィット・オンサワンチャイ教授との共同調査である。さらに,インドネシアの諸都市については,スラバヤ工科大学の J.シラス名誉教授のグループとの共同研究である。

インド洋関連の調査研究も「植民都市の形成と土着化に関する研究」(布野修司,科学研究費補助金:国際学術調査 199798 年),「インド洋海域世界における港市の空間的連関・伝播・融合・転成に関する研究」(文部科学省科学研究費:基盤(B20112013:布野修司,研究代表者 山根周)など国際学術調査として展開してきたものである。

本書が対象としたアジア海域世界は,直接接する国だけでも相当の数に上る。そうした国々の港市について同様の手法で臨地調査を積み重ねた研究展開はおそらく他にないのではないか。問題は,その成果を比較可能なかたちでいち早く公表することである。本書の刊行によって多くの国の研究者に貴重な情報を提供することが第一の国際貢献である。アジア海域世界における港市についての研究は,自由で開かれた時代の豊かな交流を振り返る試みでもある。

そして,さらに本書が目指しているのは,上述のように,アジアに軸足をおいた世界都市史,都市論の再構築への貢献である。本書の刊行は,中国,東南アジア,さらには西アジア,東アフリカの研究者を巻き込んで,新たな共同研究,学術交流を生む可能性がある。また,本書は西欧の研究者への少なからぬ提起を含んでいる。

 

申請者は,“Stupa & Swastika”(Shuji Funo & M.M.Pant, Kyoto University Press+Singapore National University Press, 2007)の刊行,日本学士院の紀要への投稿採用(‘Ancient Chinese Capital Models-Measurement System in Urban Planning-’, PJA Series B Physical and Biological Sciences, November 2017, Vol.93 No.9, 721-745.)など,欧文による発表も進めてきている。『亜州城市建築史』『世界住居』に続いて『大元都市』の中国語訳も完成し,近々出版の予定である。また,「古代インドの都市理念」The Idea of the City in Ancient India(「東南アジアの古代都市を考える」東京文化財研究所,2018 , 古代中国都城モデル都市計画における寸法体系-城市规划的尺寸系统- 鴻勛建筑史学国際学術研討会,中国建築学会建築史学分会,福州大学,2018 )など国際学会 における発表も行ってきている。上述の通り,今回刊行する京都大学学術出版会は海外の学術出版社と提携した国際出版も積極的に行っており,本書についても,刊行された暁には,国内外での評価や批判を踏まえながら,英文による出版など,国際発信をさらに追求していきたい。

本書がきっかけとなって,日本の,また,アジアの,さらに世界の,アジアの都市をめぐる議論が大いに盛り上がること,ひいては世界都市史へ向けての国際学術交流が活発化することを目指したい。


 







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布野修司 履歴 2025年1月1日

布野修司 20241101 履歴   住所 東京都小平市上水本町 6 ー 5 - 7 ー 103 本籍 島根県松江市東朝日町 236 ー 14   1949 年 8 月 10 日    島根県出雲市知井宮生まれ   学歴 196...