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2022年2月22日火曜日

京(木造)町家再生のための「散水式水幕装置」について、 京町家再生論,シルバン編集委員会,シルバン5,1996春

京町家再生論,シルバン編集委員会,シルバン5,1996春


京(木造)町家再生のための「散水式水幕装置」について

布野修司


 「京町家再生研究会」が設立(一九九二年七月一七日)されて七年目を迎える。そして、この程、実践的に京町家再生を目指す職人集団「京町家作事組」が結成された(一九九九年四月二四日)。京都はなかなか元気である。

 一方、京町家をめぐって今話題になりつつあるのが「水幕式散水装置」である。御承知のように、木造住宅再生の大きな壁となってきたのは法制度(防火規定)である。京都に来る早々「京町家再生研究会」メンバーに加えて頂き、いきなり「京町家再生のための防火手法」について考える機会を得たのであるが、なかなかうまい制度手法はみつからなかった。その時考えられたのが、「散水式水幕装置」である。「散水式水幕装置」とは、簡単に言えば、屋外スプリンクラーのようなものである。実験したら、防火性能は高い。当然である。水をかければ燃えないのは当たり前である。もちろん、どのぐらいの量が必要かが実験の内容であるが、とにかくそういう装置で防火性能を認定することはできないか、という問題提起であった。

 折しも建築基準法が性能規定を旨とするよう改定された(一九九八年六月)。これは追い風ではないか、ということで、祇園祭に山車が出る橋弁慶山の町会所を例にとって具体的な設計を試みた。今年中は、実施してみようとということになっている。もしかすると、「散水式水幕装置」が普及することになるかもしれないのである。

 もちろん、散水式水幕装置の普及に当たっていくつか留意すべき点がある。

 まず第一に、散水式水幕装置の設置は京町家再生という大きな目的のためのひとつの手段であって、その普及そのものが必ずしも目的ではないということである。上述したように、京町家再生のために大きくたちはだかるのが法・制度である。その本質は、この度の建築基準法の改正においても変わらない。いわゆる「その他条例の定めるところによる」という例外規定(建築基準法3条)を一般的に適用するのは難しい。すなわち、既存の法・制度を利用するとしたら町家の「文化財」としての位置づけが必要であり、生活しながら、場合によっては改造を含んで修理維持していく一般の町家についてはミニマム・リクワイアメントとしてなんらかの防火性能をもとめられることに変わりはない。徹底するためには、地方分権を建築行政においても具体的に展開する大きな転換が必要である。現行法で可能なのは、町家街区については防火地域、準防火地域の指定を外す、思い切った都市計画によって対応することである。

 次に考えられるのが個別に性能を保証していく方法である。具体的に旧建築基準法38条に代わる型式適合認定を用いる方法である。「散水式水幕装置」はこの方法として位置づけられる。この装置の設置を担保として防火性能として認定を受けるわけである。散水式水幕の実効性が認められれば、以前より現実性をもった手法となる。

 散水式水幕装置の普及に当たっては、具体的に建築確認が可能かどうか検討が必要である。また、設置のコストが居住者の負担として無理ないかどうかが検討される必要がある。普及によってコストダウンが想定されるとしても、大きな負担になると普及は困難である。 散水式水幕装置は、延焼防止が目的である。内部からの失火や現状の立地条件では、個々の町家への設置のみでは不十分である場合もある。また、立地によっては、様々なタイプの装置が必要となることも考えられる。まず、具体的な改装、贈改築、新築のモデル・ケースを試みる必要がある。また、既存の町家に設置する場合、どのような問題(特に法・制度的)があるかシミュレーションを行うことが必要となる。

 以上を前提として、市民へのアプローチが必要となる。コミュニティをベースとするまちづくりの取組みの一環としても位置づけられる必要がある。散水式水幕装置の設置を梃子にした防災まちづくりの展開がひとつの方向性となる。

 そのためにはまず、京町家再生のための実践的な組織が必要である。京町家の維持管理、修理改善を組織的に積み重ねる中で、その普及が計られる必要がある。それを目的として設立されたのが京町家作事組である。

 装置を普及する上で鍵を握るのは設計者、施工者である。その意義を市民にアピールするためにはその意義を理解する専門家の組織が不可欠である。個々の町家の改修、増改築などのケースに可能な限り装置の設置を行うことが考えられる。もちろん、なんらかのサポートシステムがないと費用の点で普及は必ずしも容易ではない。市民の理解、行政の支持が前提である。

 ひとつの可能性は、上に言うように、まちづくりの一環として普及活動を展開することである。京都市まちづくりセンターなどとの連携が具体的に考えられる。そのイニシアチブをとることが期待されるのが、設計者、施工者を含めたプランナーである。 

 町家再生の課題を共有する都市は少なくない。京都でうまくいけば、各都市にも普及するであろう。「京町家再生研究会」も他の都市、他地域の団体との連携を模索すべき段階に来ているのかもしれない。そして、その手掛かりに「散水式水幕装置」がなるかもしれない。







 

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