「待てしばしはない」と「しばし待て」の間
布野修司
『待てしばしはない―――東畑謙三の光跡』(日韓建設通信新聞社、1999年)をまとめさせて頂いてもう5年の月日が流れた。この間、設計事務所を取り巻く環境は実に厳しい。2001年から2003年にかけて、日本建築学会の『建築雑誌』の編集長を務めた(2002年1月号~2003年12月号)のであるが、明るい展望は見えてこなかった。建設業界の構造改革は、未だ進行中のように見える。
極めて奇妙に思われたのは、建設不況にもかかわらず、未曾有の建設ラッシュが続いたことである。東京のウォーターフロントの再開発、京都都心のマンション林立がその象徴である。「2003年問題」とも呼ばれたけれど、供給過剰であることは誰の目にも明らかであるのに、止められない。仕事を維持するのが第一だから、とにかくこなすしかない、という状況が続いてきた。
「待てしばしはない」というのは、設計は瞬間瞬間の的確な決断が必要だということであるが、これからはどんどん建てる時代ではないとすれば、じっくり時間をかけて考えることも要請されるだろう。いずれにせよ、設計事務所としての新たな戦略が必要なのではないか。『東畑建築事務所ビジョン』には、そうした新たな方向が模索されていることが窺える。
公共建築の設計施工者の選定において、PFIが大きな流れとなる中で、組織事務所の役割が大きく問われつつある。場合によると、そのシステムに埋没し、変質を余儀なくされる可能性もある。「安くていいものを」というのは当然であるけれど、とにかく「安ければいい」という流れが既に見え始めている。設計事務所は、その存在基盤を再確認することを求められているといっていい。
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