13ダム成金の家,おしまいの頁で,室内,199901
ダム成金の家
布野修
出身だからという縁で、島根県の出雲でいくつかの仕事をさせて頂いている。なかでも「出雲市まちづくり景観賞」「しまね景観賞」の審査は毎年楽しみだ。前者は今年で九回目、後者は六回目になる。毎年出かけていって、故郷各地を見て回る。役得というべきか。
年々新しい建物ができる。また、年々土木工事が進む。地域の景観を変えるのが公共事業であることがよくわかる。多くの自治体が、この間景観条例をつくり、景観賞という名の顕彰制度を設けたのはバブル経済による「景観破壊」に対する危機感であった。しかし、その主犯は多くの場合公共事業なのである。
評判が悪いのが、崖面や法面をコンクリートで固める工法である。三面貼りと言われるコンクリートで河岸と河床を固める河川の改修、高速道路や高架鉄道の足桁もそうだ。でも、確実に変化は起こりつつあることもわかる。親自然型、多自然型と呼ばれる河川改修が大流行である。お金をかけて自然を壊して、お金をかけて見かけだけもとに戻す。何をやっているかわからない。
農村の景観にとっては、耕作放棄が決定的である。人の営みがなければ景観が荒れるのは当然だ。気になるのが山間に突如現れる御殿群である。ダム建設のための移転補償による住宅群だ。あからさまな欲望を表現していて見る方が恥ずかしい。自分の中にもそうした欲望が蠢いているせいか。固定資産税が払えなくて手放したという悲喜劇もある。
景観賞の応募作にダム成金の家が多いのはうんざりだけれど、今年の一件はひと味違った。自分の住んでいた家をそのまま移したのである。二倍の費用がかかったという。
正直言って、写真のみの一次審査では何の興味も沸かなかった。たまたま、視察に行く担当になって、百年以上は経ったずいぶん立派な民家だと知った。使われている柱や梁の太さはすごい。今建てようと思っても無理だ。家主の拘りも「一瞬にして了解」である。
審査会では「古い民家をただ移築した、それだけです」と報告しただけだ。しかし、なんと大賞をとってしまった。僕ももちろん一票投じたけど一寸驚いた。
『室内』おしまいの頁で199801~199912
◎01百年後の京都,おしまいの頁で,室内,199801
◎02室内と屋外,おしまいの頁で,室内,199802
◎03英語帝国主義,おしまいの頁で,室内,199803
◎04 アンコ-ルワット,おしまいの頁で,室内,199804,
◎05 ヤン・ファン・リ-ベック,おしまいの頁で,室内,199805
◎06 秦家,おしまいの頁で,室内,199806
◎07 木匠塾,おしまいの頁で,室内,199807
◎08建築家と保険,おしまいの頁で,室内,199808
◎09桟留,おしまいの頁で,室内,199809
◎10 インド・サラセン様式,おしまいの頁で,室内,199810
◎11 ヴィガン,おしまいの頁で,室内,199811
◎12カピス貝の街,おしまいの頁で,室内,199812
◎13ダム成金の家,おしまいの頁で,室内,199901
◎14 J.シラスのこと,おしまいの頁で,室内,199902
◎15 ジベタリアン,おしまいの頁で,室内,199903
16西成まちづくり大学,おしまいの頁で,室内,199904
17 スラバヤ・ヤマトホテル,おしまいの頁で,室内,199905
◎18京都デザインリ-グ構想,おしまいの頁で,室内,199906
◎19 ジャングル,
おしまいの頁で,室内,199907
◎20 大工願望,おしまいの頁で,室内,199908
◎21日光,おしまいの頁で,室内,199909
◎22ヴァ-ラ-ナシ-,おしまいの頁で,室内,199910
◎23北京の変貌,おしまいの頁で,室内,199911
◎24群居,おしまいの頁で,室内,199912
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