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2025年1月27日月曜日

ジープニー,at,デルファイ研究所,199210

ジープニー,at,デルファイ研究所,199210 


ジープニー

                                 布野修司


 

 マニラを初めて訪れたのは一九七九年のことだけど、いきなり度肝を抜かれたのがジープニーのデザインであった。ジープニーというのは、フィリピンを訪れたことがある人であれば誰でもご存知であろう、ジープを改造した乗合自動車のことである。それぞれが実に派手派手しく、思い思いに飾りたてられている。過剰なデザインの競演。日本のトラック野郎も真っ青である。

 マニラの町を無数のジープニーが騒々しく走り回る。マニラといえばジープニーというのが僕のイメージである。マニラの都市景観の一部にジープニーはなっている。

 しかし、それにしても人は何故車を飾りたてようとするのであろうか。日本でもトラックに限らず、改造車ブームがある。日本では、一部マニアの趣味にみえるのであるが、ジープニーをみると、車を飾りたてたいという欲望はもう少し一般的なようである。他の国では、アフガニスタンの派手な乗合バスも有名である。人目を引きたい、自分のものであることを誇示したい、キッチュの原理がそこにもあるといえるであろうか。

 僕が興味をもったのは、ジープニーのデザインを支える部品のシステムである。勝手気ままにデザインされているようでいて、実はその自由さを支えるシステムがあるのである。そして、ジープニーの装飾システムは、身近な生活に想像以上に侵入しているのである。

 そこここのバランガイ(住区)を歩く。そこら中でジープニーの修理が行われている。そして思い思いの装飾品が手作りで作られている。大抵中古品だ。そして、屋台のようなオートショップでは、各種の装飾部品が売られているのである。

 ジープニーの工場もいくつか行ってみた。裸のままのジープが並んでいた。もちろん、新品(?)のジープニーもあるけれど、多くは裸のままで売られ、それぞれで仕上げを行うのが一般的なのである。

 裸の躯体、エンジンなどの内燃機関、装飾・仕上げ、三つの部分系はある意味で明快である。そして、少なくとも仕上げの段階は誰にも開かれている。好き勝手にデザインができる、そうした余地がそこに生み出されるのである。

 ジープニーに余程魅せられたのだろう。一冊の写真集をものしたのが、E.トーレスとE.サンチアゴである(註1)。出たばかりのその本を手に入れて、これはR.ヴェンチューリの『ラスベガス』に匹敵すると、何となくにんまりしたことを思い出す。その本によると、六〇年代は、ペンキで絵を画く程度であったという。馬やミラーや旗など矢鱈に装飾部品がつけられるようになったのは七〇年代のことである。

 九〇年代に入って、石油資源の節約、交通問題を理由として、ジープニーは次第に少なくなりつつあるという。そうだとすると、ジープニーを飾りたてたいという欲望は、果して、どこに向かうのであろうか。

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布野修司 履歴 2025年1月1日

布野修司 20241101 履歴   住所 東京都小平市上水本町 6 ー 5 - 7 ー 103 本籍 島根県松江市東朝日町 236 ー 14   1949 年 8 月 10 日    島根県出雲市知井宮生まれ   学歴 196...