都市再生と経済発展
地域再生と持続的発展
カンポンKampungに学ぶこと
布野修司
カンポンkampungとは、インドネシア(マレーシア)語で「ムラ」という意味である。カンポンガンというと「イナカモン」というニュアンスである。都市の居住地なのにカンポンという。このカンポン、実は、英語のコンパウンドcompound(囲い地)の語源なのである。カンポンのあり方を紹介する中でアジアの都市の共生原理と持続的発展を考えたい。
自己紹介
・建築計画→地域生活空間計画→環境建築学/カンポン調査(東南アジアの都市と住居に関する研究)/アジア都市建築研究・植民都市研究
・タウンアーキテクト論 →近江環人(コミュニティ・アーキテクト)地域再生学座
• 日本建築学会 建築計画委員会委員長 英文論文集委員会委員長
• 元理事 『建築雑誌』編集委員長 前アジア建築交流委員会委員長
• 島根県景観審議会委員
• 宇治市都市計画審議会会長 景観審議会委員
主要著作
• [1]:戦後建築論ノート,相模書房,1981年6月15日(日本図書館協会選定図書)
• [2]:スラムとウサギ小屋,青土社,1985年12月8日
• [3]:住宅戦争,彰国社,1989年12月10日
• [4]:カンポンの世界,パルコ出版,1991年7月25日
• [5]:戦後建築の終焉,れんが書房新社,1995年8月30日
• [6]:住まいの夢と夢の住まい・・・アジア住居論,朝日新聞社,1997年10月25日
• [7]:廃墟とバラック・・・建築のアジア,布野修司建築論集Ⅰ,彰国社,1998年5月10日(日本図書館協会選定図書)
• [8]:都市と劇場・・・都市計画という幻想,布野修司建築論集Ⅱ,彰国社,1998年6月10日(日本図書館協会選定図書
• [9]:国家・様式・テクノロジー・・・建築のアジア,布野修司建築論集Ⅲ,彰国社,1998年7月10日(日本図書館協会選定図書)
• [10]裸の建築家・・・タウンアーキテクト論序説、建築資料研究社,2000年3月10日
• [11]曼荼羅都市・・・ヒンドゥー都市の空間理念とその変容,京都大学学術出版会,2006年2月25日
Ⅰ カンポンの世界
カンポンの語源については、ポルトガルのcampanha, campo(キャンプの意)の転訛、フランス語のcampagne(田舎countryの意)の転訛という説もあるが、マレー語のカンポンがその由来であるというのがOEDであり、その元になっているのが、ユールとバーネルのインド英語の語彙集である。Yule, H. and Burnel, A.C., “Hobson-Jobson: A
Glossary of Colloquial Anglo-Indian Works and Phrases, and of Kindred Terms,
Etymological, Historical, Geographical and Discursive,
アジアの居住問題
人口問題、食糧問題、資源問題、居住問題
発展途上国の都市化の特質
発展途上国の都市化 都市化の水準と速度
過剰都市化とプライメート・シティ ランクサイズルール
都市化の構造的重層性
植民都市
複合社会
二重構造
都市村落
都市化理論と発展途上国
都市化の類型
カンポンの特性
1.多様性
2.全体性
3.複合制
4.高度サービス社会 屋台文化
5.相互扶助システム
6.伝統文化の保持
7.プロセスとしての住居
8.権利関係の重層性
カンポンに学ぶこと
• Urban Involution
• Shared Poverty(貧困の共有) Work Sharing
カンポン・ハウジング・システム
カンポン固有の原理の維持/参加/スモール・スケール・プロジェクト
段階的アプローチ/プロトタイプのデザイン/レンタル・ルームのデザイン/集合の原理の発見/ビルディング・システムの開発/地域産材の利用/ワークショップの設立/土地の共有化/ころがし方式/コーポラティブ・ハウジング/アリサンの活用/維持管理システム/ガイド・ライン ビルディング・コード
Ⅱ アジア都市の伝統
アジア都市の伝統としての都市遺産を見直す必要があるだろう。今日の「世界」が「世界」として成立したのは,すなわち,「世界史」が誕生するのは,「西欧世界」によるいわゆる「地理上の発見」以降ではない。ユーラシア世界の全体をひとつのネットワークで繋いだのはモンゴル帝国である。火薬にしても,上記のように,もともと中国で「発明」され,イスラーム経由でヨーロッパにもたらされたのである。モンゴル帝国が広大なネットワークをユーラシアに張り巡らせる13世紀末になると,東南アジアでは,サンスクリット語を基礎とするインド起源の文化は衰え,上座部仏教を信奉するタイ族が有力となる。サンスクリット文明の衰退に決定的であったのはクビライ・カーン率いる大元ウルスの侵攻である。東南アジアにおける「タイの世紀」の表は「モンゴルの世紀」である。
こうして,ヒンドゥー都市(インド都城)の系譜が浮かび上がるだろう。それを,チャクラヌガラ(あるいはマンダレー)という実在の都市に因んで「曼荼羅都市」と名づけた(『曼荼羅都市―ヒンドゥー都市の空間理念とその変容―』、2006年、京都大学学術出版会)。
それでは,他の伝統はどうか。インド都城と対比しうる伝統として中国都城の伝統がある。大元ウルスが,『周礼』孝工記をもとにして中国古来の都城理念に則って計画設計したのが大都(→北京)である。中国都城の理念が,朝鮮半島,日本,ベトナムなど周辺地域に大きな影響を及ぼしたことはいうまでもない。日本の都城は,その輸入によって成立したのである。この中国都城の系譜を,ほとんど唯一,理念をそのまま実現したかに思われる大都に因んで,「大元都市」の系譜と仮に呼ぼう。「大元」とは,『易経』の「大いなる哉,乾元」からとったと言われる。「乾元」とは,天や宇宙,もしくはその原理を指す。
ユーラシア大陸を大きく見渡すと,こうして,都城の空間構造を宇宙の構造に見立てる二つの都市の伝統に対して,都市形態にコスモロジーカルな秩序を見いだせない地域がある。西アジアを中心とするいわゆるイスラーム圏である。少なくとも,もうひとつの都市の伝統,イスラーム都市の伝統を取り出しておく必要がある。具体的に焦点とすべきは,「ムガル(インド・イスラーム)都市」である。イスラーム都市の原理とヒンドゥー都市の原理はどのようにぶつかりあったのかが大きな手掛かりとなるからである。ムガルとはモンゴルの転訛である。ここでもモンゴルが絡む。モンゴル帝国は,その版図拡大の過程で,どのような都市の伝統に出会ったのか,13世紀の都市がテーマとなる。
Ⅲ 地域の生態系に基づく都市システム
エコハウス・エコタウン
パッシブ・クーリング 冷房なしで居住性向 ミニマム熱取得/マキシマム放熱/ストック型構法長(スケルトン インフィル) リニューアブル材料 リサイクル材料(地域産出材料)/創エネルギー 自立志向型システム(Autonomous House)/PV(循環ポンプ、ファン、共用電力) 天井輻射冷房/水 自立志向型給水・汚水処理システム 補助的ソーラー給湯
ごみ処理 コンポスト 土壌浄化法 合併浄化槽
大屋根 日射の遮蔽二重屋根 イジュク(椰子の繊維)利用
ポーラスな空間構成 通風 換気 廃熱 昼光利用照明 湿気対策 ピロティ
夜間換気 冷却 蓄冷 散水 緑化 蓄冷 井水循環 スケルトン インフィル 混構造 コレクティブ・ハウジング 中水 合併浄化槽外構 風の道
アジアに限らず世界中で問われるのは地球環境全体の問題である。エネルギー問題、資源問題、環境問題は、これからの都市と建築の方向を大きく規定することになる。とにかく、遺産は遺産として大事にしろ、というのが筆者の意見である。スクラップ・アンド・ビルドの時代ではない。
かつて、アジアの都市や建築は、それぞれの地域の生態系に基づいて固有のあり方をしていた。メソポタミア文明、インダス文明、中国文明の大きな影響が地域にインパクトを与え、仏教建築、イスラーム建築、ヒンドゥー建築といった地域を超えた建築文化の系譜が地域を相互に結びつけてきたが、地域の生態系の枠組みは維持されてきたように見える。インダスの古代諸都市が滅亡したのは、森林伐採による生態系の大きな変化が原因であるという説がある。地球環境全体を考える時、かつての都市や建築のあり方に戻ることはありえないにしても、それに学ぶことはできる。世界中を同じような建築が覆うのではなく、一定の地域的まとまりを考える必要がある。国民国家の国境にとらわれず、地域の文化、生態、環境を踏まえてまとまりを考える世界単位論の展開がひとつのヒントである。建築や都市の物理的形態の問題としては、どの範囲でエネルギーや資源の循環系を考えるかがテーマとなる。
ひとつには地域計画レヴェルの問題がある。各国でニュータウン建設が進められているが、可能な限り、自立的な循環システムが求められる。20世紀において最も影響力をもった都市計画理念は田園都市である。アジアでも、田園都市計画はいくつか試みられてきた。しかし、田園都市も西欧諸国と同様、田園郊外を実現するにとどまった。というより、田園郊外を飲み込むほどの都市の爆発的膨張があった。大都市をどう再編するかはここでも大問題である。どの程度の規模において自立循環的なシステムが可能かは今後の問題であるけれど、ひとつの指針は、一個一個の建築においても循環的システムが必要ということである。
アジアにおいて大きな焦点になるのは中国、インドという超人口大国である。また、熱帯地域に都市人口が爆発的に増えることである。極めてわかりやすいのは、熱帯地域で冷房が一般的になったら、地球環境全体はどうなるか、ということがある。基本的に冷房の必要のないヨーロッパの国々では、暖房の効率化を考えればいいのであるが、熱帯では大問題である。米国や日本のような先進諸国では、自由に空調を使い、熱帯地域はこれまで通りでいい、というわけにはいかない。事実、アイスリンクをもつショッピング・センターなどが東南アジアの大都市ではつくられている。
しかし地球環境問題の重要性から、熱帯地域でも様々な建築システムの提案がなされつつある。いわゆるエコ・アーキテクチャーである。スラバヤ・エコ・ハウスもその試みのひとつである。自然光の利用、通風の工夫、緑化など当然の配慮に加えて、二重屋根の採用、椰子の繊維を断熱材に使うなどの地域産財利用、太陽電池、風力発電、井水利用の輻射冷房、雨水利用などがそこで考えられている。マレーシアのケン・ヤンなどは、冷房を使わない超高層ビルを設計している。現代の建築技術を如何に自然と調和させるかは、アジアに限らず、全世界共通の課題である。
日本のまちづくりをめぐる基本的問題
◇集住の論理 住宅=町づくりの視点の欠如 建築と都市の分離 型の不在 都市型住宅
◇歴史の論理
スクラップ・アンド・ビルドの論理 スペキュレーションとメタボリズム 価格の支配 住テクの論理 社会資本としての住宅・建築・都市
◇異質なものの共存原理
イメージの画一性 入母屋御殿 勾配屋根
多様性の中の貧困
◇地域の論理
大都市圏と地方 エコロジー
◇自然と身体の論理
人工環境化 土 水 火 木
建てることの意味
◇生活の論理
住宅生産の工業化 住宅と土地の分離
物の過剰 家族関係の希薄化
住宅問題の階層化 社会的弱者の住宅問題
◇グローバルな視野の欠如
発展途上国の住宅問題
◇体系性の欠如(住宅都市政策)