ビルディング・トゥゲザー,at,デルファイ研究所,199208
ビルディング・トゥゲザー
布野修司
ビルディング・トゥゲザーというのは、バンコクで住宅建設に取り組むグループの名称である。一緒に建てよう、実にストレートであっけらかんとした響きがある。
東南アジアの各国は深刻な居住問題を抱えているのであるが、政府機関のみならず、居住問題に真正面から取り組むインフォーマル・グループがいくつかある。ビルディング・トゥゲザーは、そうした中でも極めて意欲的で、建築的構想力に溢れたグループである。
基本的には居住者が建設に参加する自力建設(セルフ・ビルド)である。素人でもできるようにインターロッキング・ブロックがデザインされた。われわれが見かけるのとはひと味違う。基本型は一種類で、四〇〇ミリ×二〇〇ミリ×二〇〇ミリ、日本のものより倍の厚さがあって中空になっている。できるだけ種類を少なくするのが意図で、簡単な器具で三人一組で積み上げるというのが最初の発想である。
現場にブロック工場が造られた。PCの梁や杭も現場で造られる。建具は木造で、これまた現場生産である。手づくりではあるが、ビルディング・システムは極めてしっかりと設計されているのである。
しかし、最初にみた時、多少の違和感があった。重い、少しゴツ過ぎるのではないか、と思えたのである。
「なんで木造にしなかったのか。」
ブロックをデザインしたハワイの建築家B.アザリントンに素直に聞いてみたら、「木の方がタイでは高いからだ」というのが答であった。「タイの気候には合わないのでは」となおも畳かけると、こうだ。
「うるさいな、そんなこと言ってないで、せっかくだから一緒にブロック積んでみればいい。簡単だから。」
建設はクラスター(房)単位で行われる。居住予定者は、講習を受けた上で、また、先行するクラスターを手伝いながら、ウイーク・エンドや夜間を利用して建設に参加する。参加した分、分譲価格は安くなるわけである。
現場では、同時にいくつかの段階が進行している。僕が最初に現場を訪れた時は丁度最初のクラスターが完成したところであったが、既に数グループはそれぞれのクラスターに着工しており現場は実に賑やかであった。そして、人々は一緒に建てることを心底楽しんでいるように思えた。
もちろん、さすがに居住者だけで完成したのではなかった。ビルディング・トゥゲザーのコア・スタッフの監督のもと、数人の職人さんが常駐して全体をみることになったのであるが、それにしても、二〇〇戸が参加した大変なプロジェクトである。
出来上がると画家が壁面に絵を思い思いに描く。スーパーグラフィックだ。仏教の世界がモチーフとなるかと思うと、自然の森も描かれる。かと思うと、工事現場そのものを描いた壁もある。不思議な感じの空間ができた。そしてみんなもそれぞれ自分の家に絵を描く。楽しそうである。この感覚は日本には薄い。


















