建築コスモロジーの最終局面:渡辺豊和 2002
---無限連鎖の入れ子空間
---建築の全く新たな手法へ
布野修司
これまでに見たことのない建築をつくりたい-というのは不正確だ-、これまでに-人類が、というべきだ-体験したことのない空間を創り出したい、という欲望は、どうやら渡辺豊和を捉えて死ぬまで放さないようである。
そして、彼はその方法を見つけたという。僕の理解するところによると、それは、部分が全体であり、全体が部分であるような、また、平面が断面で、断面が平面であるような、まるで無限の入れ子のような空間構築の方法である。
宇宙と身体、マクロコスモスとミクロコスモスを架橋する建築のコスモロジーを追い求めてきたコスモロジー派の建築家として知られる渡辺豊和であるが、さらに確実に建築の立ち上がる根源へと深化する道を見いだしたようなのである。
最大のヒントは宇治の平等院である。その形態分析は、それが稀有の建築であり、来るべき建築空間のあり方を胎蔵していることを明らかにしたのである。
そのディテールや部分を拡大したり、縮小したり、回転したりする操作の意味が突然閃(ひらめ)いたのだという。側で見ていた僕はあっけにとられるばかりであった。
今のところ平等院だけだ、と彼は言う。そして、だから平等院こそ京都の遺伝子であり、その方法に学ぶことが京都から世界への発信に繋がるのだという。僕の尊敬する東洋史学の泰斗宮崎市定先生が平等院についてまさに日本的であると書いていたことを思い出す。平等院の感性は西アジア、イスラームの感性に繋がっているのである。
渡辺豊和の、この新たな手法は、もしかするととんでもない建築ネットワークを探り当てているのではないかと窃かに思う。
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