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2021年5月2日日曜日

公共建築は実験しなければ意味がない 『建築雑誌』2018年2月号

 『建築雑誌』20182月号

話者:布野修司 聞き手:藤村龍至 石榑督和 中島弘貴

録音時間:5757秒 実質55分 収録日:2017124日 会場:建築会館



公共建築は実験しなければ意味がない

 

Q1 これまで関わってきた設計者選定について

 

布野 随分やりました。京都大学に着任した当初、続けて頼まれたのは出身の島根の市町村です。島根で二段階の公開ヒアリング方式で、「島根方式」と呼ばれるようになりますが、当時で、二次審査では参加量を各チームに100万円払いましたよ。下手なシンポジウムより面白いし、行政手間も少ないと、すぐ採用されましたよ。最初の事例は1993年の《加茂町文化ホール「ラメール」》です(設計:渡辺豊和、竣工:1994)。2005年に滋賀県立大学へ移って、最近は守山市や滋賀県で同じ方式で4つやりましたよ。

 

Q2 専門家としてどのように関わるべきか

 

布野 東大の鈴木成文研出身で、全国市長会の会長を務めていた森民夫・元長岡市長によれば、市町村レベルの行政には企画力がないと言いますA。したがって、専門家は、自分のいる場所や大学がある地域のいろんな委員会などに参加しているわけですから、公共建築の発注者である自治体とよい関係をつくり、相談があれば専門家の知見から計画全体を把握し、チェックしながら、要求水準書をつくる「コミュニティ・アーキテクト」であるべきだと思います。また、専門家による選定委員会は少なくとも竣工までは解散しない、建設委員会として存続することが大切です。例えば建設費の高騰による入札不調の時などに、選定者側も設計の内容についてフォローすべきなんです。

 

Q3 現在の設計者選定に関わる仕組みが抱える課題について

 

布野 選定委員会は基本的には発注者である行政が委員長を決めますが、委員の選定に口を出したことはありません。意見を求められた場合には、過半は建築の技術的なことがわかる人が良いと言ってきました。半数は建築のことがちゃんとわかって、的確な質問ができる建築の専門家で構成するのがよいと思います。

「島根方式」をやり出した頃、宮脇檀さんが一般市民による住民投票をはじめましたが、それには専門家としてずっと反対してきました。例えば敷地に利害関係があった場合、多数決では関係者の組織票や政治力によって決まってしまいます。やはり専門家が中立的な立場で決定すべきだと思います。判断材料はすべて公開し、議論の経緯や結果、評価を説明すべきです。審査委員も質問等でみずからの考えをオープンに示す必要があります。

 現在のプロポーザル方式は問題だと思います。手間を減らしたことはよいかもしれませんが、実績や一級建築士の人数だけでは決められるはずがありません。特定の敷地に対する提案を含めて審査すべきだと思っています。

 

●専門家である審査員は、新しい価値創出とそのリスクヘッジとの葛藤をどう考えればよいのでしょうか。――中島

 

布野 そもそも公共建築で標準解をつくるのであれば、わざわざコンペをやる必要がありません。例えば学校建築はこの先ずっと今のままの形式でよいのでしょうか。形骸化を防ぐためには、見たことのない形や、誰も経験したことがない技術を用いた実験が必要です。新しい建築の建設技術や計画方法についての経験を蓄積し、誰もが利用できるように可能性を開くのは公共建築の役割です。

 

●実験性を問題視して外部から攻撃する向きもあり、防衛策として客観評価の演出で武装するというケースも多そうですね。――藤村

 

布野 それは評価項目とそのバランスという、フレームそのものの問題です。センター試験のように統計が積み重ねられていれば信頼できますが、評価項目のほとんどが事務局である自治体職員が他の事例を参考にして何となく設定しているだけで、本気で考えられていません。

やはり公開審査で、応募者は隣にライバルがいるから勝手なことは言えないですし、審査委員側も能力を問われるという緊張感のある仕組みをつくっていく方がいい。そのためにも専門家にはまず自分が住んでいるところと大学のあるところで「コミュニティ・アーキテクト」になってもらいたいと思っています。

 

A 「発注者」の責任―プロジェクト運営の多様化と設計の質(『建築討論web014号、2017年) http://touron.aij.or.jp/2017/11/4504

 

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