アジアの都市組織の起源,形成,変容,転生に関する研究,科研費NEWS,2013年度Vol.3,文部科学省
アジアの都市組織の起源、形成、変容、転生に関する研究
布野 修司
研究の背景
都市を自治会や企業など様々な組織体から構成されるとするのが「都市組織(urban
tissues)」という概念です。都市を有機体に喩え、遺伝子、細胞、臓器、血管、骨など様々な生体組織からなると考えるのがわかりやすいと思います。建築学・都市計画学の分野では、その空間構成を問題にします。都市を建築物の集合体と考え、集合の単位となる建築類型(住居、学校、病院など)とそれらで構成された街区(住宅地)のあり方を明らかにし、さらに、建築物をいくつかの要素(部屋、建築部品等)からなるものと考え、建築部品から都市まで一貫して構成するシステム、その理論に最大の関心を払います。私たちの身近な生活環境をどう設計するかが建築学・都市計画学の使命だからです。
磯村英一先生(当時東洋大学長)から「東洋における都市問題・居住問題の理論的・実証的研究」という課題を与えられて、京都大学東南アジア研究センターで東南アジア学の手ほどきを受けて以降、アジア各地を歩き出して35年になります。明治以降、日本の都市は、専ら西欧近代の都市をモデルとしてきましたが、研究を開始した1970年代末に直感していたのは、西欧近代が理想モデルとした都市のあり方についての懐疑でした。研究のモチベーションを支えているのは、アジア各地で出会う、それぞれの地域で育まれてきた実に活き活きとした「都市組織」のあり方なのです。
研究の成果
最初にインドネシア・スラバヤのカンポン(都市集落)についての臨地調査に基づいて、学位論文『インドネシアにおける居住環境の変容とその整備手法に関する研究』を書きました(日本建築学会賞受賞(1991年))。西欧とは全く異なる「都市組織」のあり方と都市計画の手法を発見し、その後、「都市組織」モデルとして「スラバヤ・エコハウス」(図1)を設計建設する機会を得て、日本の住宅地設計のありかたについても大きな提起をなしえたと思っております。
インドネシアを最初のフィールドとしたことで、さらなる研究展開に繋がります。ひとつは、「比較の手法によるイスラームの都市性の総合的研究」(研究代表者・板垣雄三)に加えて頂いたことです。もうひとつは、インドネシアの宗主国であったオランダと日本の関係を軸に、オランダ植民都市研究の機会を与えていただいたことです。それぞれ、『近代世界システムと植民都市』(日本都市計画学会論文賞受賞(2006年))(図2)、『ムガル都市--イスラーム都市の空間変容』(2008年)にまとめることができました。イスラームの「都市組織」のあり方には実に多くのことを学ぶことができます。
植民都市研究を展開することで、はっきりと自覚されたのは、西欧の都市研究、都市計画史研究がアジアをほとんど視野にいれていないことです。
今後の展望
一連の研究によって、目指すべき方向は見えています。近代都市計画のパラダイムを超えて、それぞれの地域で自立的な個性あふれる「都市組織」をどう実現できるかが全世界で問われていると思っています。『グリッド都市―スペイン植民都市の起源,形成,変容,転生』(2013年)で明らかにしたのが、画一的な西欧の近代植民都市とは異なる「都市組織」のあり方の追求という課題です。
アジアについては、『ムガル都市』とともに、『曼荼羅都市・・・ヒンドゥー都市の空間理念とその変容』(2006年)を上梓し、三部作の最後として『大元都市-「中国」都城の理念と空間構造,そしてその変遷』をまとめたところです(図3)。速やかに出版できればと考えています。
目指すのは、世界都市史、世界都市計画史をアジアに軸足をおいてまとめることです。“Stupa & Swastika”(2007)など、世界への発信を試みてきていますが、日本における「都市組織」研究の質の高さと大きなフレームの切れ味をさらに強力に発信できればと思っています。もちろん、各地のユニークな「都市組織」に関する臨地調査を積み重ねていくことは地道に行っていきたいと思っています。
関連する科研費
平成11-13年度 基盤研究(A)「植民都市空間の起源・変容・転成・保全に関する調査研究」
平成14-17年度 基盤研究(B)「発展途上地域(湿潤熱帯)の大都市における居住地モデルの開発に関する研究」
平成18-21年度 基盤研究(B)「アジア諸都市の都市組織と都市住宅のあり方に関する比較研究」
平成22-24年度 基盤研究(B)「中国都城の系譜とその空間構造の歴史的変容に関する研究」
平成25-27年度 基盤研究(B)「アジアの都市組織の起源,形成,変容,転生に関する総合的研究」
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