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2021年9月21日火曜日

21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(7)「「中国共産党第一次全国代表大会会址」が「スタ-バックス」に 超高層の谷間に「里弄住宅」 上海 新天地」

 21世紀のユートピア・・・都市再生という課題

都市再生とは何か。何を再生するのか。都市再生デザインの行方を探る

布野修司 日刊建設工業新聞200111302002092710回連載 

 この五年の間、「植民都市空間の起源・変容・転成・保全に関する調査研究」(文部省科学研究費助成研究)と題する研究プロジェクトに携わってきた。〈支配←→被支配〉〈ヨーロッパ文明←→土着文化〉の二つを拮抗基軸とする都市の文化変容が主題である。自ずから、世界史的なスケールにおいて、都市の未来を考える機会となった。

二一世紀の鍵を握る今日の発展途上地域の都市は、ほとんどが植民都市としての歴史をもつ。各都市は、人口問題、環境問題に悩む一方で、共通の課題を抱え始めている。植民地期に形成された都市核の再開発問題である。植民都市遺産を否定するのか、継承するのかはかなり大きなテーマである。

顧みるに、我が国は、「都市再生」の大合唱である。一体「都市再生」とは何か。再生する都市遺産とは一体何か。世界中のいくつかの事例に即して、様々な角度から考えて見たい。

  21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(7)

「中国共産党第一次全国代表大会会址」が「スタ-バックス」に

  超高層の谷間に「里弄住宅」 上海 新天地 多彩な都市の貌 

布野修司 

 

上海は、おそろしく元気なまちだ。浦東新区に「東方明珠電視塔」など超高層が林立する様は壮観である。超高層の数では東京も脱帽であろう。人民広場にある上海城市規画展示館には上海全体の模型がワンフロア全体に展示されており、そのすごさを実感できる。

一方、上海の貌というと西洋建築の建ち並ぶ外灘(バンド)である。その夜景は上海の往時を偲ばせる。上海は日本租界を含めて各国の租界がつくられた町だ。異国情緒が漂ったかつての雰囲気は未だに残っている。また、未だ一九二〇年代から三〇年代に開発された里弄(りろう)住宅(石窟門ともいう)がびっしり並ぶ地区もある。超高層が林立する谷間に低層の居住区がまだまだ点々と存在しているのである。里弄住宅もまた上海の貌である。

そして、上海のニュースポットとなっているのが「新天地」である。「新天地」は、人民公園の西側を南に下がった廬湾区の一画にある。心底仰天したのは、「一大会址」に「スターバックス」が入っていたことだ。グローバリゼーションの象徴といえるのではないか。超高層建築の多くもアメリカ人建築家の設計である。「一大会址」とは中国共産党第一次全国代表大会会址のことである。一九二一年七月、当時フランス租界であったこの場所、李漢俊(後に脱党)の住宅に毛沢東ら一三名が集まった。一九世紀半ばに住宅地として開発された地区で、これまで煉瓦造の建物が建ち並んでいた。

煉瓦造の住宅に次々と手が加えられ、洒落たブティックやレストランに変貌しつつある。新旧の取り合わせのデザインがいかにも受けそうな雰囲気を醸し出していた。未だ工事中だが、既に観光名所になりつつあるらしく、バスガイドが観光客を引き連れて巡っている。まさに「新天地」として、若い世代を惹きつけているのである。

「新天地」だけではない。蒋介石夫人の宋美齢が使った書斎(宋慶齢故居)は、「カフェ・アールデコ・ガーデン」となっている。かつて英国人の屋敷であった瑞金賓館はアジア・レストランに変貌している。租界建築が次々にリニューアルされているのも上海のひとつの貌である。




[01] 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(1)「バブリ-なオランダ建築」,日刊建設工業新聞,20011130

[02] 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(2)「問われる歴史的都市核の再開発」,日刊建設工業新聞,20020111

[03] 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(3)「元気なロンドン・テムズ川・サウス・バンクス」,日刊建設工業新聞,20020201

[04] 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(4)「再開発の壮絶なる失敗ケ-プタウンのディストリクト・シックス」,日刊建設工業新聞,20020222

[05] 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(5)「バ-ドウォッチングのできる都心 ジャカルタのニュ-タウン・イン・タウン」,日刊建設工業新聞,20020315

[06] 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(6)「アイデンティティとしての空間形式(街区と町屋) マラッカ オ-ルドタウン」,日刊建設工業新聞,20020531

[07] 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(7)「「中国共産党第一次全国代表大会会址」が「スタ-バックス」に 超高層の谷間に「里弄住宅」 上海 新天地」,日刊建設工業新聞,2002615

[08] 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(8)「大雑院から高層マンションへ 歴史的大改造 北京 消えゆく胡同 消えゆく四合院」,日刊建設工業新聞,200207 12

[09] 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(9)URA(都市再開発機構)の挑戦 甦るショップハウス・ラフレシア シンガポ-ル チャイナタウンの変貌」,日刊建設工業新聞,20020830

[10] 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(10)「地下に眠るロ-マの都市遺構 ウォ-タ-フロント・バルセロネ-タ バルセロナ ガウディの生き続ける街」,日刊建設工業新聞,20020927

 

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