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2021年9月23日木曜日

21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(9)「URA(都市再開発機構)の挑戦 甦るショップハウス・ラフレシア シンガポ-ル チャイナタウンの変貌」

 21世紀のユートピア・・・都市再生という課題

都市再生とは何か。何を再生するのか。都市再生デザインの行方を探る

布野修司 日刊建設工業新聞200111302002092710回連載 

 この五年の間、「植民都市空間の起源・変容・転成・保全に関する調査研究」(文部省科学研究費助成研究)と題する研究プロジェクトに携わってきた。〈支配←→被支配〉〈ヨーロッパ文明←→土着文化〉の二つを拮抗基軸とする都市の文化変容が主題である。自ずから、世界史的なスケールにおいて、都市の未来を考える機会となった。

二一世紀の鍵を握る今日の発展途上地域の都市は、ほとんどが植民都市としての歴史をもつ。各都市は、人口問題、環境問題に悩む一方で、共通の課題を抱え始めている。植民地期に形成された都市核の再開発問題である。植民都市遺産を否定するのか、継承するのかはかなり大きなテーマである。

顧みるに、我が国は、「都市再生」の大合唱である。一体「都市再生」とは何か。再生する都市遺産とは一体何か。世界中のいくつかの事例に即して、様々な角度から考えて見たい。

 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(9)

URA(都市再開発機構)の挑戦  甦るショップハウス・ラフレシア 

シンガポ-ル チャイナタウンの変貌



シンガポールは1979年に初めて訪れて以来何度も歩いた。海外に出掛ける度に立ち寄ることが多く、チャンギ空港での滞在時間は相当の日数!になる。この四半世紀のシンガポールの変貌は実に著しい。

二〇年前、チャイナタウンには、種々の屋台が建ち並び、多くの人々が溢れていた。崩れ落ちそうなショップハウスの窓から数多くの顔が通りを見下ろす、活気ある地区であった。一方、街には既に高層の集合住宅が林立しつつあった。再開発の波が押し寄せ、チャイナタウンは風前の灯火のように思えた。

実際、八〇年代には数々の公共住宅建設事業、再開発事業が実施されることになる。高層住宅の下に店舗を配置する下駄履き型のピープルズ・タウン・センター、そして、チャイナタウン・ポイントがそのモデルである。シンガポール建設当初の一八二二年に遡るチャイナタウンの歴史もさすがにその命脈を断たれたかに見えた。現在、チャイナタウンのすぐ北に隣接するシンガポールの中心、ボート・キーの周辺には超高層のオフィスビルが建ち並んでいる。シンガポールは、美しく現代的な都市へと変貌を遂げたのである。

昨年九月、そしてこの七月にシンガポールを歩いて、街が変わりつつあることに気がついた。街のあちこちでショップハウスが改装されているのである。パステルカラーで塗り替えられたショップハウスのファサードが、日本人には多少違和感があるかもしれないが、トロピカルな雰囲気を醸し出して、通りを明るくしているのである。

急速に再開発を進めてきたシンガポールが、都市建築遺産の保存をテーマにするのは一九八〇年代の終わりである。シティ・ホールやラッフルズ・ホテルのようなモニュメンタルな建造物に限らない。チャイナタウンやリトル・インディア、そしてカンポン・グラム(アラブ・ストリート)のような地区全体もまた保存地区に指定(一九八九年)されるのである。もちろん、指定されたからといってすぐさま街が変わるわけではない。投資の対象にならなければ、あるいは保存がなんらかのメリットにつながらなければストックに手は入らない。しかし、ようやく動き出したというのが実感である。チャイナタウンの一画に建つURA(都市再開発機構)ギャラリーには様々な改修保全の資料やマニュアルが用意されており、多くの人々が訪れていた。

スタンフォード・ラッフルズは、民族毎に居住区を分けるセグリゲーション(棲み分け)を計画方針とする。一八二二年にタウン・コミッティを組織し、チャイナタウン、ブギス・カンポン、アラブ・カンポンなどを計画した。基本にしたのがショップハウスである。ヨーロッパのアーケード、中国の亭子脚(ていしきゃく)をルーツとすると言われる、ファイブ・フット・ウエイ(カキ・リマ)を前面にもち、ぎっしり建ち並ぶ店舗併用住宅は各地区共通でバック・レーン(サーヴィス用裏道)を持つのが特徴である。ある意味ではラッフルズの考案であり、マラッカやペナン(ジョージタウン)、バンコクなどにも持ち込まれている。

六〇年代から八〇年代にかけての再開発圧力にも関わらずシンガポールには多くのショップハウスが残されている。その中心がリトル・インディアであり、カンポン・グラムであり、チャイナタウンである。その理由のひとつは敷地割りと合ったショップハウスというしっかりした建築の型があったからである。

『植えつけられた都市・・英国植民都市の形成』(京都大学学術出版会)を書いたR.ホームは、これをショップハウス・ラフレシアと呼ぶ。ラフレシアとはラッフルズが発見した世界最大の花の名前だ。ショップハウスを建築のラフレシアというセンスに僕は共感を禁じ得ない。

 

     

[01] 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(1)「バブリ-なオランダ建築」,日刊建設工業新聞,20011130

[02] 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(2)「問われる歴史的都市核の再開発」,日刊建設工業新聞,20020111

[03] 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(3)「元気なロンドン・テムズ川・サウス・バンクス」,日刊建設工業新聞,20020201

[04] 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(4)「再開発の壮絶なる失敗ケ-プタウンのディストリクト・シックス」,日刊建設工業新聞,20020222

[05] 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(5)「バ-ドウォッチングのできる都心 ジャカルタのニュ-タウン・イン・タウン」,日刊建設工業新聞,20020315

[06] 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(6)「アイデンティティとしての空間形式(街区と町屋) マラッカ オ-ルドタウン」,日刊建設工業新聞,20020531

[07] 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(7)「「中国共産党第一次全国代表大会会址」が「スタ-バックス」に 超高層の谷間に「里弄住宅」 上海 新天地」,日刊建設工業新聞,2002615

[08] 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(8)「大雑院から高層マンションへ 歴史的大改造 北京 消えゆく胡同 消えゆく四合院」,日刊建設工業新聞,200207 12

[09] 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(9)URA(都市再開発機構)の挑戦 甦るショップハウス・ラフレシア シンガポ-ル チャイナタウンの変貌」,日刊建設工業新聞,20020830

[10] 21世紀のユ-トピア 都市再生という課題(10)「地下に眠るロ-マの都市遺構 ウォ-タ-フロント・バルセロネ-タ バルセロナ ガウディの生き続ける街」,日刊建設工業新聞,20020927

 

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