アジアンスタイル,統一日報,19970614
アジアンスタイル 村松伸著 書評
一七人のアジアの建築家たちについての評論集である。また、それぞれの建築家の作品がカラー写真で紹介されている。
中国(北京)の馬国馨、マレーシア(クアラルンプール)のケン・ヤングのように国家を代表する建築家もいれば、チベット(ラサ)の策郎(スオラン)のように著者たちが苦労して探し当てた建築家もいる。その意表をついた組み合わせがまず面白い。
全て現地を訪れ、著者に会い、話し合い、実際に作品を見た体験をもとに本書は書かれている。臨場感あふれる文章が魅力的である。かといって、ひたすら建築家とその仕事を誉め上げ、丁寧に紹介しようというのではない。常に、その建築家をクールに位置づける眼がある。しばしば、痛烈な批判も記されている。一七人の建築家たちは見事に料理されているのである。紹介のスタイルをとったアジアの現代「建築家」についての論といえるだろう。
そうした意味で興味深いのは、「アジア現代建築と一七人のアジア建築家たち」と題された終章(あとがき)である。それぞれの国の経済の発展段階において、どのような建築家が社会的に必要とされるか、また、どのような建築デザインのテーマが要請されるかが見事に解析されているのである。「普遍性」と「地域性」、「オリジナリティ」あるいは「アイデンティティ」といった概念がそれぞれに問われているのである。
気になることがあるとすれば、「アジアン・スタイル」というタイトルである。著者も認めるように、一七人の建築家たちはアジア各国から選ばれているわけではない。それぞれの国の建築家はひとりかふたりで代表されるわけではない。「アジア」あるいは「アジアンスタイル」という概念で、無数の多様な運動を一括する態度には大いに違和感がある。さらに、個々の建築家を一方的に位置づける視線も気になる。それぞれの建築や町をどうつくるかをめぐって、本書がここで取り上げられた建築家を含めたかたちで多様な議論を巻き起こすことを期待したい。
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