『図書新聞』読書アンケート 2015上半期 下半期
2015年度上半期
① 山本理顕、権力の空間/空間の権力、講談社新書メチエ
②黒石いずみ、東北の震災復興と今和次郎、平凡社
③渡辺真弓、イタリア建築紀行、平凡社。
①は、この間最も建築のありかたを根源的に問い続けてきた建築家の渾身の建築論。個人と国家の<あいだ>を設計せよ、が副題。雑誌『思想』における同題5回の連載がもとになっている。建築の社会的あり方を公私の空間のあり方、その境界<閾>のあり方に即して追求する。ハンナ・アーレントの一連の著作が読み解かれる。②は、東日本大震災後の被災地支援に取り組む筆者のグループが昭和戦前期の「東北地方農村漁村住宅改善調査」を中心に今和次郎の仕事の意味を問い直す。復興計画の現在と重ね合わせられることによって、その問題点が浮彫にされる。③はゲーテの『イタリア紀行』を下敷きにしたイタリア建築案内。イタリア旅行に必携の書。他に、絵本のなかまみちづくりの発想を読み解く④延藤安弘、こんなまちに住みたいナ、晶文社、など
布野修司(建築批評・アジア都市研究・環境問題)
2015年度下半期
① 藤本隆宏・野城智也・安藤正雄・吉田敏、建築ものづくり論 Architecture as “Architecture、有斐閣
②陣内秀信、イタリア都市の空間人類学、弦書房
③鈴木哲也・高瀬桃子、学術書を書く、京都大学学術出版会。
①は、「アーキテクチャー」概念を媒介とする経営学・経済学と建築学の共同研究の成果をもとにした新たな建築産業論。新国立競技場問題、杭打ちデータ偽装問題など建設業の抱える構造的問題が世情を賑わすが、日本型建築生産システムの成立を跡づけ、その強みと弱みを分析した上で、新たな「建築ものづくり」の方向を示唆する。②は、イタリア都市の建築類型学研究を出発点とし「空間人類学」の手法を確立、イタリアから地中海、イスラーム圏、さらに中国、東京・日本での膨大な調査研究を展開してきた著者の論集。③は、大学出版会において長年学術出版に携わってきた著者たちによる学術論。ノウハウ本の趣をとっているが、学術論文のあり方、専門分野のあり方、そして学のあり方そのものが問われる。評者は、『近代世界システムと植民都市』『大元都市』なだ何冊もお世話になり、鍛えられた。
布野修司(建築批評・アジア都市研究・環境問題)
0 件のコメント:
コメントを投稿