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2022年3月12日土曜日

『図書新聞』読書アンケート 2006上半期 下半期

  『図書新聞』読書アンケート 2006上半期 下半期

布野修司

①杉山正明、『モンゴルが世界史を覆す』(日経ビジネス文庫、20063月)

 小杉泰、『現代イスラーム世界論』(名古屋大学出版会、20062月)

田中麻里、『タイの住まい』(圓津喜屋、20062月)

 

建築の世界では、『にほんの建築家 伊東豊雄・観察記』(瀧口範子、TOTO出版)『建築の可能性、山本理顕的想像力』(山本理顕、王国社)が最先端の収穫であるが、当方、このところアジアに関心を移しており、『曼荼羅都市―ヒンドゥー都市の空間理念とその変容―』(京都大学学術出版会)を上梓して以降、インド・イスラーム都市論にかかりきりである。

①は、『逆説のユーラシア』の文庫本化による加筆改訂版である。チンギス・カン生誕800年ということもあってモンゴル・ブームである。このところ中央アジアに視点をおいていることもあって、杉山の大ユーラシア史観(遊牧民から見た世界史)に魅せられっぱなしである。その筆致は佳境の域に達しつつある。

②は、現代イスラームについては最も信頼する小杉のこれまでの論考を集大成する大論文集である。分厚いが一気に読める。その視点、関心が極めてヴィヴィッドだからである。

③は、アジアについての著作が少ない中での、タイの住まいの問題を多面的に追求した労作。 


 図書新聞 2006下期

布野修司

 ①山下和也・井手三千男・叶真幹、『ヒロシマをさがそう 原爆を見た建物』(西田書店、2006年9月)

 ②大月敏雄、『集合住宅の時間』(王国社、200610月)

 ③鈴木成文、『五一C白書 私の建築計画学戦後史』、住まいの図書館出版局、200612

『帝国日本の学知』シリーズ(岩波書店)第八巻「空間形成と世界認識」(山室新一)、「興亡の世界史」シリーズ『イスラーム帝国のジハード』(小杉泰)に期待したい。

建築の世界では、この間の日本の都市の変貌をじっくり考えさせる書物が二点、届けられた。

①は、「猫車配送所」こと松山巌の編集装丁による小品だが問題提起の佳品。原爆を見届けたのは、「原爆ドーム」だけじゃない、本書には「被爆建物」一五七件が写真とともに記述されている。一瞬にして壊滅させられた都市にも、その都市の記憶を伝える建築物は残っている。それらの建造物の語りかけるものを本書は問いかける。著者の一人写真家の井手三千男は本書の上梓を見届けることなく亡くなった。

②は、日本の集合住宅の歴史を、具体的な事例をもとに描き出す。日本には集合住宅の伝統は薄い。一般的には、関東大震災後に同潤会によって建てられたアパートメントハウスが始まりと考えられるが、一方で長屋や「文化住宅」の流れがある。本書は、日本における「集まって住むかたち」とその記憶を一七例について浮かび上がらせている。

街の記憶、生活の記憶について考えさせる二冊に続けて③が届いた。二DKという日本人の戦後住宅の原型の成立に関わった著者の真摯な思考について是非知って欲しい。



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