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2022年3月19日土曜日

『図書新聞』読書アンケート 2013上半期 下半期

  『図書新聞』読書アンケート 2013上半期 下半期 

 

布野修司

 

脇田祥尚『スラムの計画学 カンボジアの都市建築フィールドノーオ』めこん 

②延藤安弘『まち再生の術語集』岩波新書

③陣内秀信+法政大学陣内研究室編『アンダルシアの都市と田園』鹿島出版会

①カンボジアで居住環境改善に関わる調査を続ける都市住居論集。タイトルに違和感が残るが、膨大なフィールドワークがその論考を支えている。②は,震災復興まちづくりにも奮闘する、「まちづくり伝道師」を自称する著者のまちづくりの「術語集」。もちろん、法律用語や行政用語が並ぶのではなく、まちづくりに力を与える、経験に裏打ちされた言葉の束である。言葉の連鎖が興味深い。③は、東京と地中海を往復しながらフィールドワークを展開する著者グループの最新成果。④陣内秀信・三浦展編『中央線がなかったら見えてくる東京の古層』NTT出版もある。手前味噌ながら、⑤布野修司・ヒメネス・ベルデホ、ホアン・ラモン『グリッド都市-スペイン植民都市の起源、形成、変容、転生』京都大学学術出版会を上梓した。アジアの諸都市を歩いて、今は中国に集中しているのであるが、陣内グループの世界(③アンダルシア)とようやく繋がることができた気分である。その他⑥建築のあり方研究会『建築を創る 今、伝えておきたいこと』井上書院が、建築のありかたを掘り下げている。



布野修司

 

牧紀男『復興の防災計画 巨大災害に向けて』鹿島出版会

②森傑監修『大好きな小泉を子どもたちへ継ぐためにー集団移転は未来への贈り物ー』株式会社小泉地区の明日を考える会

③小野田泰明『プレ・デザインの思想 建築計画実践の11箇条』TOTO建築叢書

 その時(201103111446分)から随分と時が流れた。しかし、東日本大震災で大津波を受けた地域には、未だに茫漠たる風景が拡がっている。そして、原発事故によって放射能を撒き散らされた地域は、時間が凍結されたように動いていない。「殺風景」である。風景は殺されたままだ。

 そうしたなかで、東日本大震災の復興に関わりながら思索を深める著作が現れ始めている。①は、京都大学防災研究所にあって、巨大災害に向き合い続けている研究者の防災計画論。東日本大震災の復興計画についてももちろん冒頭に触れられるが、全体は、著者が数々の災害について直接見聞きしてきた知見をもとにした、あらゆる地域に対して地域の拠って立つ基盤を問う事前復興論である。

 ②は、逸早く合意形成を図り、高台移転の計画をまとめた、その全過程の記録。われわれはこのプロセスに多くを学ぶことができる。コミュニティ・アーキテクトの役割を果たした森傑の役割は大きい。

 ③は、東北にあって数々の復興計画に携わる著者による建築計画論。復興計画そのものには直接触れられないが、基本的な方法論が展開されることにおいて貴重である。

 一方で復興バブルが沸き立つなかで、被災地の殺風景は際立つ。この殺風景をもたらすものへの深い思索なしに日本に未来はないだろう。


 

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