『図書新聞』読書アンケート 2021上半期 下半期
2021年上半期
布野修司
❶山本義隆『リニア中央新幹線をめぐって 原発事故とコロナ・パンデミックから見直す』みすず書房2021年4月
❷神田順『小さな声からはじまる建築思想』現代書館2021年2月
❸松村淳『建築家として生きる 職業としての建築家の社会学』晃洋書房2021年3月
❹辻泰岳『鈍色の戦後 芸術運動と展示空間の歴史』水声社2021年2月
❺日埜直彦『日本近現代建築の歴史』講談社選書メチエ2021年3月
❶は、「フクシマ」後、「コロナ・パンデミック」後の日本の採るべき指針を明快に指し示す緻密な論考。ローカル線が潰れていくなかでリニア中央新幹線の建設に突き進むのは日本の破滅への道である。❷は、「建築基本法」制定運動を粘り強く展開する建築構造家の自らの歩みを振り返る建築論。阪神淡路大震災、耐震偽装問題、東日本大震災を鋭く問う。❸は、文化欄では「建築家」しかしその他の欄では建築業者に過ぎない、そうした建築家「界」の重層的差別の構造を鋭く抉る。ありうべき建築家について考える必読書。❹は、展覧会を軸に戦後建築を問う。フランク・ロイド・ライトの帝国ホテルの工事管理で来日して以来、日本の近代建築の歩みに大きな影響を与えたとされるアントニン・レイモンドの占領期の仕事(戦時中は焼夷弾の延焼実験のために木造住宅地を設計(1942)、戦後は政商として動いた)が冒頭論じられる。❺は、日本の近代建築の歴史を、明治維新に遡って、「戦後」を含んだかたちで叙述するはじめての通史の試み。これまで書かれた日本の近代建築史は、何故か敗戦までの歴史であった。『戦後建築論ノート』(1981)を書いた評者としては、我が意を得たりである。
個人的な収穫としては、❻布野修司『スラバヤーコスモスとしてのカンポン』京都大学出版会2021年2月を上梓した。『カンポンの世界』(1991)以降のアジア都市組織研究の集大成である。起承転結の学術書のスタイルを超える?重層的な構成を試み、QRコードでカンポンの生活風景を映した動画も組み込んだ。(建築批評)
2021年下半期
布野修司
❶高島直之『イメージかモノか―日本現代美術のアポリア』武蔵野美術大学出版局2021年11月
❷小野田泰明・佃悠・鈴木さち『復興を実装する 東日本大震災からの建築・地域再生』鹿島出版界2021年7月
❸ JCAABE日本建築まちづくり適正支援機構『建築系のためのまちづくり入門 ファシリテーション・不動産の知識とノウハウ』学芸出版社2021年9月
❹松村秀一『建築の明日へ 生活者の希望を耕す』平凡社新書2021年7月
❶は、『芸術の不可能性 滝口修造 中井正一 岡本太郎 針生一郎 中平卓馬』(2017)に続く日本現代美術論。前著同様、芸術の成立根拠を執拗に問う。イメージ(観念)かモノ(物質)か、本書のテーマはタイトルに端的に示されるが、日本美術の1970年前後、「もの派」そして「アンチ・フォーム」と呼ばれる系譜、反芸術、芸術解体、無芸術の系譜を追っている。❷は、東日本大震災以後、仙台を拠点に東北各地の復旧復興活動に建築都市計画の分野から最も深くかかわったグループによるその記録であり、総括であり、それに基づく地域再生論である。大震災によって東北地方は一気に2050年段階の人口に減少したとされる。少子高齢化の行き着く日本の地域社会の抱える問題が抉り出される。「復興を実装する」というタイトルは?
❸は、あえて「建築系のための」をうたって、日本各地のまちづくりの経験を伝えようとするマニュアルである。連ヨウスケによるマンガ「まちファシ物語」も巻末にある。ファシとはファシリテーターのことである。❷❸は一方で建築の明日は必ずしも明るくはない実態を説いている。❹は、「希望を耕す」という。「箱の産業より場の産業へ」「ひらかれる建築」など建築界の未来をめぐって発言を続けてきた著者の総まとめの感がある。(建築批評)
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