『図書新聞』読書アンケート 2016上半期 下半期
2016年度上半期
① 磯崎新、偶有性操縦法、青土社
②黒沢隆、個室の計画学、鹿島出版会
③河江肖剰、ピラミッド・タウンを発掘する、新潮社。
①のサブタイトルは「何が新国立競技場問題を迷走させたのか」。ザハ・ハディドを見出した世界的建築家による怒りの追悼書である。女性、イスラーム圏出身ということで「魔女狩り」にあったと言うが、その批判は建築界さらに日本の政財界のディープな深層に及ぶ。「ハイパー談合システム」「「日の丸」排外主義」…その告発は鋭く重い。東京オリンピックに向けていくつかの施設建設が進められつつあるが、建設業界の空洞化は覆うべくもない。②は、2014年に亡くなった建築家の論集。薫陶を受けてきたものたちがそのエッセンスを編みなおした。個室が集まって一軒の家になる、そして・・・都市になる。その組み立てを今問う意味は大きい。③は、ピラミッドをめぐる考古学的知見の最新情報を知ることが出来る。著者によればニューエイジャーの疑似科学ということになろうが、渡辺豊和『縄文スーパーグラフィック文明』(ヒカルランド)は、建築家の溢れ出る創造力の顕在を示す。
布野修司(建築批評)
2016年度下半期
①木村草太編、いま、<日本>を考えるということ、河出ブックス
②磯崎新・藤森照信、磯崎新と藤森照信のモダニズム建築談議、六曜社
③石槫督和、戦後東京と闇市、鹿島出版会。
④松山巖、ちちんぷいぷい、中央公論新社。
①は、山本理顕、大澤真幸を加えた3人の共著。個別に差異を持って生まれたきた個人がどう家族を形成し、集団を形成し、都市を形成するかをめぐって、「1住宅1家族」という近代システムを批判しながら「地域社会圏」を構想する山本理顕のヴェクトルと社会システムそのものの原理を掘り下げる大澤真幸の理論が木村によって重ね合わされる。後半は大澤現代社会論のキーワード「アイロニカルな没入」に議論が集中。議論が確実にクロスしているのは力強い。②は今や数少なくなった「建築」を語ることのできる建築家が、モダニズム建築の成立をめぐって戦前戦中の建築家の「立居振舞」を歯に衣着せずに語る。③は新宿、池袋、渋谷のターミナルビル周辺の戦後闇市の興亡を土地所有の変化を丹念に追って明らかにする。一級の労作。④は、建築批評家でもある作家の掌篇小説集である。「東京の片隅に棲息する50人の独り言」が50篇綴られる。東京はどこへいくのか、考えさせられる。
布野修司(建築批評)
0 件のコメント:
コメントを投稿