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2022年3月16日水曜日

『図書新聞』読書アンケート 2010上半期 下半期

 『図書新聞』読書アンケート 2010上半期 下半期 


 布野修司

 2010上半期

山本理顕他『地域社会圏モデル』、INAX出版

②女性とすまい研究会編『同潤会大塚女子アパートメントハウスが語る』ドメス出版

③宇杉和夫他『まち路地再生のデザイン』

 建築不況の時代にもかかわらず、否仕事がないからだというべきか、建築と都市の身近なあり方をめぐる真摯な論考が目立つ。①は地域再生の核となるべきあり方を具体的形態の問題として検討した建築家たちの議論の記録。③は、身近なまちの路地の再生のためのデザインは提起する。②は、かつてのコミュニティ・モデルの質の現代的可能性を問う。出版不況も何のその、この半年送られてきた友人たちの著作は10冊を超える。第一に、中西昭雄『シベリア文学論序説』(寒灯舎)を上げておきたい。筆者の『カンポンの世界』をまとめて頂いた編集者の渾身の文学論である。帯にいわく「零下40度の文学」「極北文学論の試み」である。手前味噌ながら、日韓併合百周年の今年を意識したわけではないが『韓国近代都市景観の形成 日本人移住漁村と鉄道町』(布野修司・韓三建・朴重信・趙聖民、京都大学学術出版会)を韓国の若い仲間たちとようやく上梓することができた。


2010下半期

 太田邦夫『エスノ・アーキテクチュア』鹿島出版会

②秋山哲一・小幡谷友二『蘇るフランス遍歴職人』出版間・ブッククラブ

③日本建築学会編『劇場空間への誘い ドラマチック・シアターの楽しみ』鹿島出版会

日本の住宅生産(新築住宅数)は年80万戸を切った。うち6割は集合住宅でいわゆる在来木造の戸建住宅は2割を下回る。伝統的な建築技術はますます失われつつある。そうした中で①は伝統的な建築技術の豊かな世界を教えてくれる珠玉の一冊である。著者はヴァナキュラー(土着)建築に関しては日本の第一人者だ。専門の建築家でも眼から鱗の諸説満載である。②は、フランスで遍歴職人が蘇りつつあるという。その他深見奈緒子編『イスラム建築がおもしろい!』(彰国社)がイスラム建築の多彩な意匠をわかりやすく教えてくれる。日本も学ぶべき仕組みを教えてくれる。③は、演出家、建築家、プロヂューサーたちが現代日本の劇場空間を問う。劇場も「冬の時代」が続くが、様々な可能性に焦点を当てる。年末近くになって渡辺豊和の『古代日本のフリーメーソン』(学研)が届いた。『縄文夢通信』の改訂ということだが全体は一新されている。建築的想像力の飛翔に久々元気になった。

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