『図書新聞』読書アンケート 2011上半期 下半期
布野修司
2011上半期
①牧紀男『災害の住宅詩』、鹿島出版会
②東京大学景観研究室編『内藤廣と若者たち』、鹿島出版会
③初田香成『都市の戦後 雑踏のなかの都市計画と建築』、東京大学出版会
3.11後、建築界は、復旧復興で騒然としている。ただ、事態はそう動いているわけではない。建築と都市の身近なあり方が根本的に問われて言葉が無い、と言ったほうがいいかもしれない。特に原発問題というあってはならないことが起こってしまった。そうしたなかで①は、いち早く東日本大震災についての一章を加えた災害人類学者の小著である。大災害の現場を見続けてきた著者の知見が随所にある。②は、岩手県の災害復興委員会委員も務める元東京大学副学長の退官記念対談集である。③は都市計画の戦後を問う労作、学位論文である。都市計画の戦後を根底から問い直す必要をつきつけるのが3.11である。手前味噌ながら、『戦後建築論ノート』『戦後建築の終焉』のその後に焦点を当てる、半生記の趣も込めて現代建築家批評『現代建築水滸伝 建築少年たちの夢』(布野修司、彰国社)を上梓した。被災地の最も深い現場から建築再生の夢をみたい、というメッセージも込めた。
2011下半期
①応地利明、都城の系譜、京都大学学術出版会
②広原盛明、日本型コミュニティ政策 東京・横浜・武蔵野の経験、晃洋書房
③細野透、東京スカイツリーと東京タワー、建築資料研究社。
①は、待望の応地都城論の集大成。都城を「王権―王都―コスモロジー」の三位一体的連関を表現する都市と規定、中国―日本に偏してきた都城論をインド世界を巻き込んでユーラシア世界に一気に解き放つ。長安、平安京を都城の「バロック化」の完成形態とみなす主張など、議論を巻き起こすこと必至である。②もまた、一貫して街づくりに関わってきた広原による「コミュニティ政策」総括の集大成。膨大な資料を丹念に読んで緻密な分析を展開する大著。ただ、関西の自治体についての作業は残されている。コミュニティが一瞬にして解体され、その再生が大きな課題になっている東日本大震災復興まちづくりにどう活かせるか、が大きな問いとなる。③は、元建築雑誌編集長によるミステリーもどきの東京論。東京の「鬼門の物語」が解き明かされる。
布野修司(建築批評・アジア都市研究・環境問題)
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