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2022年3月13日日曜日

『図書新聞』読書アンケート 2007年上半期 下半期

『図書新聞』読書アンケート 2007年上半期 下半期


図書新聞 2007上期

布野修司

 

①応地利明、『「世界地図」の誕生』、日本経済新聞出版社

②藤井譲治・杉山正明・金田章裕編、『大地の肖像』、京都大学出版会

M.Pant & S. Funo, “Stupa & Swastika”, Kyoto University Press

われわれは「世界」をどう認識してきたのか、絵図・地図が語る世界を問うのが①②。地理学を出自とする応地利明は②にも執筆している。②の共同研究が母胎になって、①が生まれたと考えられる。「ヘレフォード図」「イドリースィー図」「プトレマイオス図」など中世の世界図を総覧した上で、「画期的」な世界地図としての「カンティーノ図」(一五〇二年)に焦点が当てられている。ヴァスコ・ダ・ガマが二度目にインドのカリカットを訪れた年に描かれた一枚の地図が「世界の発見」をめぐって様々な角度から鮮やかに読み解かれている。②は、応地の論考を除くと、ほぼ東アジアからの視点を採る。中心は、なんといっても「混一疆理歴代国都之図」である。この地図が喚起する「世界史」の誕生をめぐっては杉山正明の一連の精力的な作業がある。③は、カトマンズ盆地の都市計画原理を解明。インダス都市との関係を示唆する大胆な仮説を提示。



図書新聞 2007下期

布野修司

 

藤森照信、『藤森照信建築』、TOTO出版、2007920

太田邦夫、『世界の住まいにみる 工匠たちの技と知恵』、学芸出版社、20071030

川合健二、『川合健二マニュアル』、アセテート、20071226

①は、いまやすっかり時代をリードする建築家のひとりとなるに至ったかに見える藤森照信の、現在までの集大成である。根っからの「建築少年」が、建築史家を標榜しながら「建築探偵」となり、ついには初心を貫いて建築家となる、その経緯が吐露されている。そして、自然素材に拘る藤森建築ワールドにわくわくさせられる写真集である。

藤森は、「人類の建築をめざして」というけれど、②は、人類がつくり出してきた工匠の知恵を説く。人類の建築の歴史は捨てたものではない。小さな本だけれど、ヴァナキュラー建築の世界の知恵のすごさを教えてくれる。藤森建築ワールドがいささかドン・キホーテに見えたりするのは、「過去と現在の誰の建物にも、青銅器時代以後に成立するどんな様式にも似てはならない」という藤森の設計方針によるのかも知れないが、現代建築家の大きなテーマが①②の間にある。

③は、評者のインタビュー記事も再録されるが、川合健二という稀代のエンジニアの生涯記録である。コルゲート板という地下埋設用の鉄板で囲われた自宅をつくったことで知られる。そのラショナルな思考に感銘を受ける。①~③に共通する世界に建築の未来はある、と本気で思う。



 

 

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