『図書新聞』読書アンケート 2020上半期 下半期
布野修司
①『三島由紀夫1970』文芸別冊、河出書房新社
②竹山聖+京都大学竹山研究室編『庭 のびやかな建築の思考』エイアンドエフ
③逃げ地図づくりプロジェクトチーム編著『災害から命を守る「逃げ地図」づくり』ぎょうせい
①は、映画(監督豊島圭介)『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実」に合わせた刊行。TBSが異例ともいえるほどTVCMを緊急事態宣言解除以降も流すが、観客数は如何。自らの来し方を振り返るべく封切り直後に見たが、半世紀の歴史を貫く、また日本の戦前戦後に通底する深層に迫る。本書のなかで、『三島由紀夫と』を書いた菅孝行は、三島由紀夫と亀井文夫(映画監督『日本の悲劇』)のを歴史上のさらしものにしたままでは「歴史に後から立ち会ったわれわれの沽券は台無しである』という(「憂国忌五〇年 自刃の再審へ」)。
②は、建築家竹山聖とその仲間たちの思索と活動の記録である。巻頭には、原広司、隈研吾との鼎談「庭をめぐる想像力」が置かれている。竹山と隈は原研究室の同級生で最初の大学院生である。隈研吾は、今や日本のリーディングアーキテクトとして国際的に最も著名な建築家のひとりとなったが、竹山の営為は隈に勝るとも劣らない。建築家の寿命は長い。これからの二人が楽しみである。
③は、少なくとも全自治体首長、防災担当者の必読書である。地球温暖化のせいであろう。日本列島を次々に大災害が襲う。ハザードマップなるものがあるが(そもそも未作成のところが少なくない)、肝心なのは命をなくさないことである。そのためには、逃げる、ことである。
COVID-19は、国、自治体、地域、家族…など集団関係の全てを根底的問い直すことを要求しつつあるが、高気密高断熱を推し進めてきた建築そして都市空間には、それこそ革命的変化(ウイルスとの共生)が必要である。布野修司(都市建築批評)
2020下半期
①藤森照信『藤森照信作品集』写真増田彰久、TOTO出版、2020年6月
②山本想太郎・倉方俊輔『みんなの建築コンペ論 新国立競技場問題をこえて』NTT出版、2020年7月
③松村秀一・服部岑生編『和室学』平凡社、2020年10月
①は、建築史学を出自として、建築探偵を自称して路上観察学などの展開してきた後、40歳を過ぎて建築家に転じた藤森照信の建築作品の集大成、その決定版である。建築家に転じたというが、建築を志して以来、一貫するものがこの作品集に込められているといっていい。この30年間の作品61が網羅されているが、日本のみならず台湾、モルディブ、ヨーロッパに足跡を刻んでいる。屋根にタンポポやニラが生えた、あるいは、室内に植えられた樹がそのまま屋根を突き抜ける作品でしられるが、藤森作品に一貫するのは素材に対する拘り、徹底した探求である。素材が織りなす世界が作品集冒頭の数葉の写真が示唆している。
②は、新国立競技場問題によって露呈した建築設計界の問題、特にコンペ(設計競技)の問題に焦点を当て、建築がみんなのものであるために、コンペの重要性を説く。東京オリンピックの開催そのものが危ぶまれる中で、新国立競技場問題は遠い過去のように思えるが、建築コンペは何もモニュメンタルな建築だけのものではない。少なくとも、全ての公共建築はコンペによってみんなでつくるものである。
③は、世界で日本にしかない空間として和室の「新生」をうたう。先頃、日本建築を支えてきた建築職人技術が無形文化財に指定されたが、裏を返せば、日本建築の伝統的建築技術がこの間衰退してきたことを示している。「和室学」を関する本書は、その起源、素材としての畳、茶の湯など12本の論考からなっている。
布野修司(都市建築批評)
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