『図書新聞』読書アンケート 2009上半期 下半期
2009年上半期
布野修司
①内田祥士、東照宮の近代 都市としての陽明門、ペリカン社 ②渡辺豊和、バロックの王 織田信長、悠書館③野沢正光、パッシブハウスはゼロエネルギー住宅、農文協。①は、近代における「東照宮」評価をめぐる大作、労作である。B.タウトが「桂離宮」を褒め称え、「東照宮」をこき下ろした一九三〇年代以前から、「東照宮」評価には賛否、好悪を相乱れる葛藤があった。多くの言説を引いてその葛藤を跡づけながら、それは何故かを執拗に問う。日本建築の評価をめぐる「固定観念」を問うという意味では、井上章一の『伊勢神宮』と合わせて読まれるべきだろう。本書が文句なく面白いのは、「東照宮」評価を建築技術のあり方、都市=東京のあり方と重ね合わせて読み解いている点である。②は、どっぷり歴史にはまり込んだかに見える建築家の最新刊。例によって建築家的想像力が信長を素材に踊っている。③は、低炭素社会へむけて、これまで取り組んできた経験をもとにカーボン・ニュートラルな住まいのあり方を示す好著。
布野修司(建築批評・アジア都市研究・環境問題)
2009年下半期
布野修司
① 伊東豊雄・藤本壮介・平田晃久・佐藤淳『02 20XXの建築原理へ』(INAX出版)
② 角橋哲也『オランダの持続可能な国土・都市づくり』(学芸出版社)『オランダの社会住宅』(ドメス出版)
③ 久保田裕之『他人と暮らす若者たち』(集英社新書)
④ 早川和雄『早川式「居住学」の方法』(三五館)
①は、建築家伊藤豊雄が、「青山病院跡地」を具体的な敷地として設定し若手建築家とともにつくりあげた東京都心の再開発プロジェクトの記録。建築が社会的な地位を低下させていく状況の中での真摯な思考と議論を見ることが出来る。②は、日本の都市計画、社会計画の分野で長年オランダ研究を続けてきた著者の提言。ワークシェアリングなど様々な先進的取り組みで知られるが、都市計画分野でも多くの学ぶべきものがある。③は、日本でも本格的に実体化しつつあるシェアハウス(ルームシェア)の問題を提起する。日本社会が大きく変動しつつある断面を的確に捉えた論考が目立つ。他に、小伊藤亜季子・室崎生子『子どもが育つ生活空間をつくる』(かもがわ出版)もある。
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