新建築人に送る,歩く,見る,聞く,日経アーキテクチャー,日経BP社,19920413
新建築人に贈る 布野修司
歩く、見る、聞く
このわが学歴偏差値社会では、大学で過ごす数年間が人生における唯一の息抜きの時間らしい。大学は学びに行くところではなく、遊びに行くところというのが大方の学生諸君の気分だ。学生を教える立場の教師としては、困ったものだとも思うが、考えようによっては気楽でもある。卒業生が社会に出て、「一体全体、大学で何を習ってきたのか」などと怒鳴られても、あまり責任を感じなくてすむからである。まあそこまで居直る気はないけれど、卒業生諸君には余りいうことはない。いい建築を、いい街をつくるために悪戦苦闘して欲しい、物離れせずに建築を愛し続けて欲しい、などと青臭いことが言えるだけだ。仕事の上の愚痴ならいつでも聞きましょう。
一方、これから様々な場所で建築を学び始める新建築人には言いたいことは山ほどある。建築という分野は実に裾野が広い。ありとあらゆることに好奇心をもつ貪欲さが欲しい。一個の建築を創り上げるためには、実に多様な知識と経験が必要とされるのである。もちろん、一人がオールマイティーである必要はない。ただ、視野だけは常に広くあって欲しい。
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