布野修司編:世界都市史事典,昭和堂,2019年11月30日
B46 メスキータの街―後ウマイア朝の首都
コルドバCordoba,アンダルシア州 Andalcia,スペイン Spain
グアダルキビル川の中流域に位置するコルドバは,フェニキア人の植民都市を起源とし,カルタゴの拠点都市ともなり,ローマ,続いて西ゴートの支配を受け、後ウマイア朝の首都となった、イベリア半島の都市の歴史をそのまま重層させるスペインを代表する都市である(図①)。
アッバース革命(750)によってダマスカスを追われたウマイヤ朝の王子、アブド・アル・ラフマーンⅠ世は、後ウマイヤ朝を建て(756)、サン・ヴィセンテ教会を買い取って,モスク建設を開始する(785)。このメスキータは,その後様々に拡張,改築され,西方イスラーム圏を代表するモニュメントとなる。そして,レコンキスタ後には大聖堂に改造される。教会,モスク,カテドラルという数奇な運命をたどったのがコルドバのメスキータである(図②)。
コルドバへ移住したムスリムの多くはシリア出身であり,その初期の都市形態や景観にはシリアの都市の影響があったと考えられる。10世紀には,その周囲の市壁は全長12km,人口は約50万にも達し、「西方の宝石」と呼ばれて,バグダード,コンスタンティノープルと並ぶ三大都市のひとつとなる。4回の拡張工事で収容人員2万5000人に達したメスキータとそれに隣接する王宮(アルカサル)を中心に,蔵書数40万冊と伝えられる王宮図書館など70の図書館,1600のモスク,800のハンマーム(公衆浴場),多数のマドラサがあったとされる。また,城内はハーラ(街区)に分かれ,キリスト教徒やユダヤ教徒もハーラを形成していた。また,郊外には21のバラートbalāt(郊外居住区)があった。
後ウマイヤ朝は内部に対立を抱え,反乱,紛争が続くが,アブド・アッラフマーンⅢ世がアンダルス各地を平定し,カリフ制が確立されると,その治世(在位912~961)に最盛期を迎える。アブド・アッラフマーンⅢ世は,カリフに相応しい新都として,コルドバ北西近郊シエラ・デ・コルドバ山麓に宮廷都市マディーナ・アッザフラーを建設している。東西南北1.5km×0.5kmの長方形をしており,1km四方のコルドバに匹敵する規模をしていた。また,アブド・アッラフマーンⅢ世の孫のヒシャームⅡ世(在位976~1009,1010~13)の治世に実権を握ったマンスール(ハージブ(侍従)在位978~1002)はコルドバの東郊にマディーナ・ザヒーラを新たに造営し,行政の中心としている。
アブド・アッラフマーンⅢ世以降,後ウマイヤ朝は,北方のキリスト教圏に軍事遠征を繰り返す。キリスト教徒の聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラを略奪したのは997年である。一方,マグリブにも侵攻,セウタを占領してマグリブ支配の拠点としている。
しかし,11世紀になると,後ウマイヤ朝は衰退を始め,1031年には崩壊してタイファTaifasと呼ばれる小国に分裂する。衰退の原因は,マンスールに遡るアーミル家がその権力の基礎として導入したベルベル人兵士軍団の伸張である。ウマイヤ家とアーミル家の対立に加え,8世紀初頭以降アンダルス社会に溶け込んできたベルベル人の子孫たちと「新ベルベル」人の対立が決定的になるのである。コルドバは,しばしば内乱の戦場と化し,損害を受けている。
レコンキスタが本格化するのはアンダルスが分裂して以降である。1064年,コインブラがカスティージャ=レオン王フェルナンドⅠ世によって征服され,バルバストロもフランス人騎士団によって占領されている。その後,アンダルス全体がムラービト朝の支配下に入るが、その崩壊によって,キリスト教徒のレコンキスタはさらに進む。ムラ-ビト朝にとって代わったムワッヒド朝(1130~1269)が、カリフのアンダルス滞在中の首都としたのはセヴィージャである。
最終的にコルドバが攻略されるのは、カスティーリャのフェルナンド王の「大レコンキスタ」によってであり、1236年のことである。コルドバは,14の教区に分けられ(図③)、新たに多くの教会が建てられるが、一地方都市となり,次第に衰退して,イスラーム都市の特性も失っていくことになる。18世紀には人口2万人にまで減少し、増加に転ずるのは20世紀に入ってからである(図④)。
市内には数多くの歴史的建造物が残されており、1984年にはユネスコの世界文化遺産に登録されている。
【参考文献】
布野修司・ヒメネス・ベルデホ,ホアン・ラモン(2013)『グリッド都市-スペイン植民都市の起源,形成,変容,転生』京都大学学術出版会
Trudy Ring, ed. (1996). "Cordoba". Southern Europe. International Dictionary of Historic
Places. 3. Fitzroy Dearborn. .
C. Edmund Bosworth, ed. (2007). "Cordova". Historic Cities of the Islamic World. Leiden: Koninklijke Brill.
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